テキストリイダー、専用ファイル。 句読点で区切る、設定にして下さい。 タウンゼントニヨル、イソップ寓話集。 ハナマタカシ訳。 1、狼と、こ羊。 ある日のこと、狼は、群とはぐれて迷子になった、こ羊と出会った、狼は、こ羊を食ってやろうと思ったが、牙を剥いて襲いかかるばかりが、ノウジャナイ。何かうまい理由をでっち上げて、手に入れてやろうと考えた。  そこで、狼はこんなことを言った。 「昨年お前は、俺様にひどいわるぐちを言ったな。」  こ羊は、声を震わせて答えた。 「誓って真実を申しますが、私はその頃、まだ生まれていませんでした。」  すると狼が言った。 「お前は、俺様の牧草を、食べただろう。」 「いえいえ、私はまだ、草を食べたことがありません。」  すると、またしても狼が言った。 「お前は、俺様の井戸水を飲んだな。」  こ羊は悲鳴を上げて答えた。 「いいえ。まだ、水も飲んだことがありません。だって、お母さんの、お乳以外は、何も口にしたことがないのですから。」 「ええい。もうたくさんだ。 お前がなんと言おうとも、俺様が、夜飯を抜いたままでいるとでも思っているのか。」  狼はそう言うと、こ羊に襲いかかって、貪り食った。   教訓。暴君は、いかなる時にも、自分に、都合のよい理由を、見つけるものである。 ペリー155、シャンブリ221、パエドルス1.1、バブリオス89、キャクストン1.2、エソポ1.1、イソホ2.11、ジェイコブス2、チャーリス1、ラ・フォンテーヌ1.10、クルイロフ1.13、トムスンモチーフインデックスL31。この話の系統は、バブリオス。 2、蝙蝠と、二匹の鼬。  蝙蝠が、地面におっこちて、鼬に捕まった。蝙蝠は、命ばかりはお助けを、と、懇願した。しかしこの鼬は、生まれてこの方、ずうっと、鳥と戦ってきたと言うのだ。そこで蝙蝠は、自分は鳥ではない。鼠だと言い張った。それを聞いて鼬は、蝙蝠を逃がしてやった。  それからまもなく、蝙蝠は、また、地面におっこち、そしてまたしても、鼬に捕まってしまった。  蝙蝠は今度も、命ばかりはお助けを、と、懇願した。しかし今度の鼬は、鼠を大変憎んでいると言う。そこで蝙蝠は、自分は鼠ではなく、蝙蝠だと言った。  こうして、蝙蝠は、二度までも窮地を脱した。 教訓。賢い人は、その場その場でうまく立ち回る。 ペリー172 、シャンブリ251、チャーリス29 、ラ・フォンテーヌ2.5 、トムスンモチーフインデックスB261.1。この話の系統は、イソップの原典。 3、驢馬とキリギリス。  驢馬は、キリギリスの歌声を聞いて魅了され、自分もあんなふうに、美しい声で歌ってみたいものだと考えた。そこで驢馬は、キリギリスたちに、どんなものを食べるとそんなに素敵な声が出るのかと尋ねてみた。  キリギリスたちは答えた。 「スイテキダヨ。」  それで驢馬は、水しかとらないことに決めた。  驢馬は空腹で、すぐに死んでしまった。 ペリー184 、シャンブリ278、チャーリス24 、トムスンモチーフインデックスJ512.8。この話の系統は、イソップの原典。 4、ライオンと、鼠。  ライオンが気持ちよく、寝ていると、何者かに眠りを妨げられた。鼠が顔を駆け抜けたのだ。 ライオンは、いきりたって鼠を捕まえると、殺そうとした。  鼠は、必死に哀願した。 「命を、助けて下されば、必ず恩返しを致します。」  ライオンは、鼻で笑って鼠を逃がしてやった。それから数日ご、ライオンは、猟師の仕掛けた網にかかって動けなくなってしまった。鼠は、ライオンの、うなりごえを聞きつけると、飛んで行き、歯で、ロープを、ガリガリとかじり、ライオンを逃がしてやった。  鼠は、得意になって言った。 「この前、あなたは私を嘲笑しましたが、私にだって、あなたを、助けることができるのですよ。どうです。立派な恩返しだったでしょう。」 ペリー150 、シャンブリ206、バブリオス107 、キャクストン1.18 、エソポ1.10 、イソホ2.23 、ジェイコブス11 、チャーリス8 、ラ・フォンテーヌ2.11、クルイロフ9.9、トムスンモチーフインデックスB371.1。この話の系統は、イソップの原典。 5、炭屋と、洗濯屋。  あるところに、働き者の炭屋が住んでいた。ある日のこと、炭屋は友人の洗濯屋にばったり出合った。そして洗濯屋に、自分の所へ来て、一緒に住まないか。 そうすれば、家計は助かるし、一生楽しく暮らせるからと熱心に誘った。  すると、洗濯屋は、こう、答えた。 「私は、あなたと住むことなどできません。だって、私が洗濯して、白くしたそばから、あなたは、黒くしてしまうでしょうからね。」 教訓。水と油は混ざらない。 ペリー29 、シャンブリ56、エソポ2.5 、チャーリス81 、トムスンモチーフインデックスU143 、この話の系統は、イソップの原典。 6、父親と、その息子たち。  その男には、息子が大勢いたのだが、兄弟喧嘩が絶えず、いつもいがみ合ってばかりいて、父親が止めても、喧嘩をやめないというありさまだった。  この期に及んで、父親は、内輪もめが如何に愚かなことであるかを、教え諭さなければならぬと痛感した。  頃合いを見計らって、男は息子たちに、薪の束を持ってくるようにと、言いつけた。息子たちが薪の束を持って来ると、男は、一人一人にその束を手渡し、そして、それを折るようにと命じた。  息子たちは、懸命に力を振り絞ってみたが、薪の束はびくともしなかった。そこで、男は、束をほどくと、今度は、一本一本、バラバラにして、息子たちに手渡した。すると息子たちは、たやすく薪を折った。  そこで、彼は息子たちに、こんなことを語って聞かせた。 「よいか、息子たちよ。もしお前たちが、心一つに団結し、互いに助け合うならば、この薪の束のように、どんな敵にもびくともしない。しかし、互いがバラバラだったなら、この棒きれのように、簡単にへし折られてしまうのだ。」 ペリー53 、シャンブリ86、バブリオス47 、エソポ2.31 、ジェイコブス72 、チャーリス68 、ラ・フォンテーヌ4.18 、トムスンモチーフインデックスJ1021、この話の系統は、イソップの原典。 7、イナゴを捕まえる少年。  ある少年が、イナゴを捕まえていた。そしてかなりの数が集まったのだが、少年は、イナゴと間違えて、サソリに手を伸ばそうとした。するとサソリは、鋭いどくばりをふりたてて、少年に言った。 「さあ、捕まえてごらん。君のイナゴを、全部失う覚悟があるならね。」 友だちを作るなら、ちゃんと見定めてからにせよ。見誤って悪い友だちを作ろうものなら、善い友だちを一瞬にして、総て失うことになる。 ペリー199 、シャンブリ293、クルイロフ6.9、この話の系統は、イソップの原典。 8、オンドリと、宝石。  オンドリが、餌を探していて、宝石を見つけた。  すると、オンドリはこう叫んだ。 「なんと詰まらぬものを見つけたことか。 俺にとっちゃ、世界中の宝石よりも、麦一粒の方がよっぽど価値がある。」 ペリー503 、パエドルス3.12 、キャクストン1.1 、イソホ2.10 、ジェイコブス1 、チャーリス49 、ラ・フォンテーヌ1.20、クルイロフ2.18 、トムスンモチーフインデックスJ1061.1、この話の系統は、パエドルス。 9、ライオンの、王国。  野や、森の動物たちは、王様に、ライオンを、戴いていた。ライオンは残酷なことを嫌い、力で支配することもなかった。つまり、人間の王様のように、公正で、心優しかったのだ。  彼のみよに、鳥や獣たちの会議が開かれた。そこで彼は、王として、次ぎのような宣言をした。 「共同体の決まりとして、狼と、こ羊。ヒョウと、こヤギ。トラと、ニワトリ。犬と、兎は、争わず、親睦をもって、共に暮らさなければならない。」  兎が言った。 「弱者と強者が、共に暮らせるこんな日を、私はどんなに待ちこがれたことか。」 兎はそう言うと、死にものぐるいで逃げていった。 教訓。地上の楽園など、この世にはない。 ペリー334 、シャンブリ195、バブリオス102、狐ラインケ1.1、この話の系統は、バブリオス。  注意、原典などでは、最後の、「兎はそう言うと、死にものぐるいで逃げていった。」と、いうような記述はなく、「めでたし、めでたし」で終わっている。 10、狼とサギ。  ノドに骨が刺さった狼が、多大な報酬を約束して、サギを雇った。と、いうのも、口の中へ、頭を突っ込んでもらって、彼女に骨を抜いて貰おうと、考えたからだった。サギが、骨を抜き出し、約束の金を、要求すると、狼は、牙を光らせて叫んだ。 「何を言ってやがる。 お前は、もう俺様から、じゅうぶんすぎる報酬を受け取ったはずだぞ。俺様の口から、無事に出られたのだからな。」 教訓。悪者へ施す時には、報酬など期待してはならぬ。もし、なんの危害も受けずにすんだなら、それでよしと、しなければならない。 ペリー156 、シャンブリ224 、パエドルス1.8 バブリオス94 、キャクストン1.8 、エソポ1.5 、イソホ2.16 、ジェイコブス5 、チャーリス12 、ラ・フォンテーヌ3.9、クルイロフ6.12、トムスンモチーフインデックスW154.3 、狐ラインケ3.11、この話の系統は、イソップの原典。 11、笛を吹く漁師。  笛の上手な漁師が、笛と、網を持って海へ出掛けた。彼は、突き出た岩に立ち、スウキョク、笛を奏でた。と、いうのも、魚たちが、笛のねに引き寄せられて、足下の網に、自ら、踊りいるのではないかと、考えたからだった。  結局、長いこと、待ったが、無駄であった。そこで、男は笛を置き、網を投じた。すると、ひとあみで、たくさんの、魚が捕れた。  男は、網の中で跳ね回る魚たちを見て言った。 「なんとお前たちは、ひねくれ者なんだ。 俺が笛を吹いていた時には、踊らなかったくせに、吹くのをやめた今、こんなに陽気に踊りやがる。」 ペリー11 、シャンブリ24、 バブリオス9 、キャクストン6.7 、ジェイコブス42 、ラ・フォンテーヌ10.10 、トムスンモチーフインデックスJ1909.1 、この話の系統は、イソップの原典。 12、ヘラクレスと、牛追い。  ある牛追いが、牛に車をひかせて、田舎みちを、進んで行った。すると、車輪が溝に深くはまり込んでしまった。頭の弱い牛追いは、ぎっしゃの脇に立ち、ただ呆然と見ているだけで、何もしようとはしなかった。そして、突然大声で、お祈りを始めた。 「ヘラクレス様、どうか、ここに来てお助け下さい。」  すると、ヘラクレスが現れて、次ぎのように語ったそうだ。 「お前の肩で、車輪を支え、牛たちを追い立てなさい。それから、これが肝心なのだが、自分で何もしないで、助けを求めてはならない。今後そのような祈りは、一切無駄であることを肝に銘じなさい。」 教訓。自助の努力こそが、最大の助け。 ペリー291 、シャンブリ72、バブリオス20、アウィアヌス32 、ジェイコブス61 、チャーリス101 、ラ・フォンテーヌ6.18 、トムスンモチーフインデックスJ1034、この話の系統は、バブリオス。 13、アリとキリギリス。  ある晴れた冬の日、アリたちは、夏の間に集めておいた、穀物を干すのに、おおわらわだった。そこへ、腹をすかせて、死にそうになった、キリギリスが通りかかり、ほんの少しでよいから、食べ物を、分けてくれるようにと、懇願した。  アリたちは、彼に尋ねた。 「なぜ、夏の間に、食べ物を、貯えておかなかったのですか。」  キリギリスは、こう答えた。 「暇がなかったんだよ。日々歌ってイタカラネ。」  すると、アリたちは、あざ笑って言った。 「夏の間、歌って過ごしたお馬鹿さんなら、冬には、夕食抜きで、踊っていなさい。」 ペリー373 、シャンブリ336、バブリオス140、アウィアヌス34 、キャクストン4.17 、エソポ1.23 、イソホ3.1 、チャーリス14 、ラ・フォンテーヌ1.1、クルイロフ2.12 、トムスンモチーフインデックスJ711.1、この話の系統は、バブリオス。  14、旅行者と、彼の犬。  男が、旅にデカケヨウトスルト、彼の犬が、ドアのところで、伸びをしていた。 「なぜ、伸びなどしているんだ。 用意万端、直ぐに出かけられるのか。」  男は、犬をピシャリと叱った。すると、犬はしっぽを振りながら答えた。 「ご主人様、わたしゃ、支度は済んでます。待っていたのは、わたしの方です。」 教訓。自分のせいで、遅くなったくせに、難癖をつけて、相手のせいにする者がいる。怠け者は得てしてそういうものだ。 ペリー330、バブリオス110 、トムスンモチーフインデックスJ1475、この話の系統は、バブリオス。 15、犬と、影。  犬が肉をくわえて、橋を渡っていた。すると、ミナモニ写る自分の影を見て、どこかの犬が、もの凄く、大きな肉を、くわえているのだと思った。  彼は、自分の肉を放り出すと、大きな肉を目指して、烈火の如く躍り掛かった。こうして、彼はどちらの肉も失った。  彼が、水の中でウバオウトシタニクワ、影であったし、自分の肉は、流が、ハコビサッテシマッタカラダ。 ペリー133 、シャンブリ185、パエドルス1.4、バブリオス79 、キャクストン1.5 、エソポ1.3 、イソホ2.13 、ジェイコブス3 、チャーリス3 、ラ・フォンテーヌ6.17、ニホンムカシバナシツウカン・タイプインデックス843 、トムスンモチーフインデックスJ1791.4、この話の系統は、イソップの原典。 16、モグラと、その母親。  モグラは、生まれながらに目が見えないのだが、そんな彼が、ある日、母親に言った。 「僕は、ちゃんと目が見えます。」  母親は、息子の間違いをきちんと正さなければと考え、彼の前に、一片の、にゅう香を置き、そして尋ねた。 「これは、なんだと思う。」 「これは、すいしょうです。」  すると母親は、大声で言った。 「なんてことだい。お前は、目が見えないだけでなく、鼻まで利かなくなってしまったんだね。」 ペリー214 、シャンブリ326、トムスンモチーフインデックスJ446.1、この話の系統は、イソップの原典。 17、牛飼いと、盗まれた牛。  ある牛飼いが、森で牛たちの世話をしていたのだが、一匹の雄のこ牛が、囲いからいなくなってシマッタ。牛飼いは、あちこちこ牛をサガシマワッタガ、徒労に終わった。そこで、牛飼いは、ヘルメスやパーンなど森の神々に、もし、牛泥棒を見つけることができたならば、生贄にこ羊を捧げると誓った。  それからすぐに、牛飼いが小高い丘に登ると、丘の麓で、ライオンが、こ牛を食べているのを発見した。その恐ろしい光景に、牛飼いは、天を仰ぎ、両手をさしのべてこう言った。 「オーオ、森の神々よ。 私は、たった今、泥棒を見つけることが出来たなら、こ羊を捧げると誓いましたが、今度は、こ牛に立派な牡牛もおつけ致しますから、どうか、私を無事に、ライオンから逃がして下さい。」 ペリー49、シャンブリ49、バブリオス23、ラ・フォンテーヌ6.1、トムスンモチーフインデックスJ561.2。この話の系統は、バブリオス。 18、兎と亀。  ある日のこと、兎が、亀を、足が短くてのろまだと嘲笑った。すると亀は、笑みを浮かべて、こう答えた。 「確かに、あなたは、風のように速いかもしれない。でも、あなたを、ウチマカシテミセマス。」  兎はそんなことは、無理に決まっていると思い、亀の挑戦を受けることにした。狐が、コースとゴールの位置を決めることになり、両者はそれに同意した。  競争の日が来た。二人は同時にスタートした。亀は、遅かったが、一瞬たりとも止まらずに一歩一歩着実にゴールへと向かった。兎は、道端でごろりと横になると、眠りこんだ。  しまった。  と思って、目を覚ました兎は、あらん限りのスピードで走ったが、亀はすでに、ゴールインして、気持ちよさそうに寝息を立てていた。 教訓。ゆっくりでも、着実な者が勝つ。 ペリー226 、シャンブリ352、ジェイコブス68 、チャーリス36 、ラ・フォンテーヌ6.10、日本昔話つうかん545B 、トムスンモチーフインデックスK11.3、この話の系統は、イソップの原典。 19、柘榴と林檎と茨。  柘榴の木と、林檎の木が、どちらが美しいかということで、言い争っていた。両者の議論が最高潮に達したとき、近くの垣根から、茨が、しゃしゃり出た。 「ねえ、お友達の柘榴さんに、林檎さん。せめて、私のいる前では、そんな無益な議論は、おやめ遊ばせ。」 教訓。争いごとに乗じて、とるに足らぬ者が、しゃしゃり出るものだ。 ペリー213 、シャンブリ324、トムスンモチーフインデックスJ466.1、この話の系統は、イソップの原典。 20、農夫と、鸛。  ある農夫が、種蒔きを終えたばかりの畑に、網を仕掛け、種をタベニキタ。ツルの群を一網打尽にした。 すると、ツルの群と一緒に、鸛が一匹捕らえられていた。網に足が絡まり傷ついた鸛は、農夫にナキツイタ。 「私は骨を折っているのです、どうか私を哀れんで、今回は見逃して下さい。それに、私は下世話なツルではなく、鸛なのです。 私が、父や母をどんなに慈しみ、お世話するか、あなたもご存じでしょう。  私の羽を見て下さい。ツルの羽とは違うでしょう。」  すると農夫は、大きな声で笑った。 「言いたいことは、全部言ったか。 では、俺の番だ。お前は、あの、盗人どもと一緒に捕まった。よって、お前は奴らと一緒に、死なねばならぬ。」 教訓。尻尾を捕まれているのに、言い逃れをしても無駄である。同じ穴のむじな。 ペリー194 、シャンブリ284、バブリオス13 、キャクストン6.9 、チャーリス111 、トムスンモチーフインデックスJ451.2 、この話の系統は、バブリオス。 21、農夫と蛇。  ある冬の日のこと、農夫は、寒さに凍えて、今にも死にそうになった蛇を見つけた。彼は可哀想に思い、蛇を拾い上げると、自分の懐に入れてやった。  蛇は暖まると、元気を取り戻し、本性をあらわにして、命の恩人に、カミツイタ。農夫は今際のきわに、こう叫んだ。 「オオ、これも、悪党に哀れみを与えた、当然の報いだ。」 教訓。悪党には親切にしないのが、一番の親切。 ペリー176 、シャンブリ82、パエドルス4.20 、バブリオス143 、キャクストン1.10 、ジェイコブス17 、チャーリス43 、ラ・フォンテーヌ6.13 、トムスンモチーフインデックスW154.2、この話の系統は、イソップの原典。 22、こジカと彼の母親。  むかし昔のことである。こジカが、ハハジカに言った。 「お母さんは、犬よりも大きいし、敏捷で、駆けるのも、とっても速い。その上、身を守るつのだって持っている。それなのになぜ、猟犬を怖がるのですか。」  ハハジカは、にこやかに答えた。 「お前の言うことは、みな、その通りだけど、でも母さんは、犬の吠えるのを一声聞いただけで、卒倒しそうになり、飛んで逃げたくなるんだよ。」 教訓。いくら説得しても、臆病者は、勇者にはならない。 ペリー351 、シャンブリ247 、エソポ2.33 、チャーリス95 、トムスンモチーフインデックスU127、この話の系統は、バブリオス。 23、熊と狐。  ある熊が、我こそは、動物の中で、一番、人間への愛情がこまやかであると、痛く自慢した。 と、言うのも、自分は人の死体にさえ、触れようとはしないからだと言うのだ。それを聞いて、狐が言った。 「オオ、熊さんや、生きた人を食べずに、死んだ人を食べなさい。」 ペリー288 、シャンブリ63、バブリオス14、クルイロフ6.19、この話の系統は、バブリオス。 24、燕と烏。  燕と烏が、羽のことで言い争っていた。そして、烏がこんな事を言って、その議論に、決着をつけた。 「君の羽は、春の装いには、ぴったりかもしれない。でも、僕の羽は、冬の寒さからも、身を守ってくれるんだよ。」 教訓。困難な時の友こそ、本当の友。 ペリー229 、シャンブリ348 、チャーリス76 、トムスンモチーフインデックスJ242.6、この話の系統は、イソップの原典。 25、山のお産。  かつて、山が大いに揺れ動いたことがあった。巨大な、ウナリゴエが、響き渡った。一体、何が起こるのか、ひと目見ようと、あらゆる所から、人々が集まってきた。何か、恐ろしい大災害が、起こるのではないか。  皆、固唾を飲んで見守った。  しかし、出てきたのは、鼠一匹だった。 教訓。タイザン鳴動して、鼠一匹。 ペリー520 、パエドルス4.24 、キャクストン2.5 、ジェイコブス14 、ラ・フォンテーヌ5.10 、トムスンモチーフインデックスU114、ホラーテウス詩論・引用句集139、この話の系統は、パエドルス。 26、驢馬と狐とライオン。  危ない目に合ったら、互いに助け合おうと約束して、驢馬と狐が、森へと狩りに出かけた。 だが、森の奥へと踏み込む前に、ライオンと、出くわしてしまった。絶体絶命の窮地に立って、狐はライオンの所へ行き、もし、自分を、助けてくれるならば、驢馬を捕らえるよい知恵を授けると言った。  狐は、驢馬を言いくるめると、深い穴に連れて行き、驢馬がその中に落ちるように仕向けた。ライオンは、驢馬が動けないのを見ると、即座に狐を捕まえた。そして、驢馬に取りかかったのは、狐を食ってからだった。 ペリー191 、シャンブリ270 、エソポ2.39 、トムスンモチーフインデックスQ581、この話の系統は、イソップの原典。 27、亀と鷲。  ヒガナイチニチ、日向ぼっこをしていた亀が、海鳥に向かって、ダレモ、ソラの飛びかたを、教えてくれないのだと愚痴をこぼした。近くを、飛んでいた鷲が、亀の溜め息まじりの言葉を聞くと、何かお礼をくれるのなら、ソラ高く、連れて行って、飛びかたを教えてやると言った。  亀は、喜び勇んでこう答えた。 「紅海のサチを、全てあなたに差し上げます。」 「よし、わかった、ではお前に、ソラの飛びかたを、教えてやろう。」  鷲は、そう言うと、亀を、かぎづめで、ひっつかみ、雲間へと運んでいった。 「さあ、飛ぶのだ。」  鷲はそう言うと、突然、亀を放り出した。亀は、そびえ立つ山の頂きに落ちて、甲羅もろとも、粉々に砕け散った。亀は、死ぬ間際にこう言った。 「こうなったのも当然だ。地上を歩くのさえ、おぼつかぬものが、翼や雲の真似をして、空を飛ぼうとしたのだからな。」 教訓。望むことの全てを、叶えようとするならば、破滅が待っているだろう。 ペリー230 、シャンブリ351、バブリオス115、アウィアヌス・2 、キャクストン7.2 、エソポ2.25 、ジェイコブス47 、トムスンモチーフインデックスK1041、この話の系統は、バブリオス。 28、蝿と、ハチミツの壷。  蝿たちは、倒れた壷から溢れ出る、蜜の匂いに誘われて、台所へと、ヤッテキタ。彼らは、ハチミツの上へと降り立つと、一心不乱にナメマ鷲タ。ところが、蜜が、足にベタベタ、カラミツキ、蝿たちは、飛べなくなってしまった。蜜の中で息が詰まって、死にゆくときに、蝿たちはこんなふうに叫んだ。 「ああ、なんて我等は間抜けなんだ。 ほんの少しの快楽のために、身を滅ぼすとはな。」 教訓。楽しみの後には、痛みと苦しみが待っている。 ペリー80 、シャンブリ239、チャーリス36 、トムスンモチーフインデックスN339.2、この話の系統は、イソップの原典。 29、人とライオン。  人とライオンが、一緒に森の中を旅していた。すると、両者とも、力と、勇気について、自慢しはじめた。互いに、言い争っていると、二人は、ある石像の前へとやってきた。それは、人がライオンを絞め殺している石像だった。男は、それをゆびさして言った。 「あれを見ろよ。 俺たち人間が、どんなにつよいか、わかるというものだ。百獣の王さえ、あの通りだ。」  すると、ライオンはこんなふうに言い返した。 「この石像は、あんたがた、人間が造ったものだ。もし、我々、ライオンが、石像を、造れたなら、足下にいるのは、その男の方だろうよ。」 教訓。どんなに下らない話でも、反論されるまでは、一番である。 ペリー284 、シャンブリ59 、アウィアヌス・24 、キャクストン4.15 、ジェイコブス35 、ラ・フォンテーヌ3.10 、トムスンモチーフインデックスJ1454、この話の系統は、バブリオス。 30、農夫と鶴たち。  鶴たちは、種蒔きを、おえたばかりの、小麦バタケを、エサバにしていた。農夫はいつも、パチンコをからうちして、鶴たちを追い払っていた。と、いうのも、ツルたちは、からうちしただけで、怖がって、逃げたからだ。  しかしツルたちは、それが、くうを、切っているだけだと気付くと、パチンコを見ても、お構いなしにそこに居座った。そこで農夫は、今度はパチンコに、本当に石を装填し、そして、たくさんのツルを、ウチコロシタ。  ツルたちは皆、一様に、こんなことを言って嘆いた。 「リリパットの国に、逃げる時がきたようだ、彼は、我々が怯えるだけでは、満足せずに、本気で撃ってくるのだからな。」 教訓。優しく言われているうちに言う事を聞け。さもないと、げんこつが飛んでくるぞ。 ペリー297 、バブリオス26 、トムスンモチーフインデックスJ1052、この話の系統は、バブリオス。 注意。リリパットは、ガリバー旅行記に出てくる、小人の国のこと。原典などでは、ピグミーとなっている。(ピグミーはギリシア神話の、伝説の小人)  第一部終わり。 お気づきの点がございましたらお知らせください。 http://aesopus.web.fc2.com/ ハナマタカシ。