31、かいば桶の中の犬。  ある犬が、かいば桶の中に入り、吠えたり唸ったりして、牛たちが、干し草を食べるのを邪魔していた。すると、一匹の牛が仲間に言った。 「奴は、干し草など食わぬくせに、それを食べる我々に、譲ろうとはしない。」 ペリー702 、キャクストン5.11 、ジェイコブス40 、チャーリス39 、トムスンモチーフインデックスW156、この話の系統は、シュタインハウエル。 32、狐と山羊。    ある日のこと、一匹の狐が、深い井戸に落ちて、出られなくなってしまった。そこへ、山羊が通りかかった。山羊は喉が渇いていたので、狐を見ると、その水は美味しいかと尋ねた。 狐は、自分の窮状を隠し、この水は、とても美味しいと褒めちぎり、おりてくるようにと促した。  山羊は、渇きを癒すコトバカリニ、キヲトラレ、深く考えもせずに深い井戸へと飛び降りた。山羊が水をノミハジメルト、狐は、自分たちの窮状を、山羊に打ち明け、そして、二人して抜け出す方策を、語って聞かせた。 「イイカイ、君が、前足を壁に掛けて、ツノでしっかりと支えてくれたら、僕は、君の背中を駆け上って、ここから抜け出すから、そしたら、君を助けてあげるよ。」  こうして、狐は、山羊の背中を跳躍し、井戸から抜け出した。しかし狐は、そのまま井戸を後にした。  山羊が、それでは約束が違うと叫んだ。すると狐は振り向いてこう言った。 「山羊さん、あんたは、老いぼれて、耄碌したようだね。もしあんたの頭に、その、あごひげ程の脳味噌が、詰まっていたなら、抜け出せるか、どうかも確かめずに、おりては行かなかっただろうがね。」 教訓。飛ぶ前に見よ! 転ばぬ先の杖。 ペリー9 、シャンブリ40 、パエドルス4.9 、キャクストン6.3 、エソポ2.30 、イソホ3.14 、ジェイコブス82 、チャーリス33 、ラ・フォンテーヌ3.5、ニホンムカシバナシツウカン・タイプインデックス581、582 、トムスンモチーフインデックスK652、この話の系統は、イソップの原典。 33、熊と二人の旅人。  二人の男が、一緒に旅をしていた。すると、二人は、ばったりと、熊に出くわした。一人は、すぐさま木に登り、ハカゲに身を隠した。もう一人は、熊にやられてしまうと思い、地面に横たわった。すると、熊がやってきて、鼻先で、探りを入れながら、全身をくまなく嗅ぎ回った。  彼は、息を止め、死んだ振りをした。熊は、死体には触れないと言われているのだが、その通り、熊はすぐに彼から離れて行った。熊が見えなくなると、木に登っていた男も、おりてきて、「熊は、君に、なんて囁いたのかね。」と、間抜けなことを言い出した。すると相方は、こんなふうに答えた。 「熊はね、僕にこんな忠告をしてくれたよ。危険が迫った時に、知らんぷりするような奴とは、一緒に旅をするな。」 教訓。災難は、友の誠実さを試す。 ペリー65、シャンブリ254、アウィアヌス・9 、キャクストン7.8 、エソポ2.2 、ジェイコブス50 、チャーリス67 、ラ・フォンテーヌ5.20 、トムスンモチーフインデックスJ1488、この話の系統は、イソップの原典。 34、牡牛と車軸。  重い荷物を積んだ、スウトウダテのギッシャが、田舎ミチを走っていた。すると、車軸が、もの凄い音を立てて、ギジギシとキシンダ。牛たちは振り向くと、車輪に言った。 「なぜ、あんたらわ、そんなに大きな音を立てるんだね、引っ張っているのわ我々だ、泣きたいのわ、こっちのホウダヨ。」 教訓。怠け者は無駄口ばかり叩くが、働き者には、そんな暇わない。 ペリー45 、シャンブリ70 、バブリオス52 、チャーリス117、この話の系統は、イソップの原典。 35、喉の渇いた鳩。  喉の渇いた鳩が、水差しを見つけた。実はそれは、看板の絵であったのだが、鳩はそれに気付かずに、ばたばたと飛んで行くと、もの凄い音を立てて、激突した。その衝撃で、両方の羽が、ともに砕け、鳩は地面へとおっこちて、見ていた人に捕まった。 教訓。熱中し過ぎて、分別を無くしてはならない。 ペリー201 、シャンブリ301、チャーリス77 、トムスンモチーフインデックスJ1792.1、この話の系統は、イソップの原典。 36、烏と白鳥。  烏は、白鳥の姿を見て、自分もあんなふうに、美しくなってみたいと思った。烏は、白鳥の羽が白いのは、いつも泳いでいるからダトオモイ、自分も湖に住もうと、エサバとしている近くの祭壇を後にした。しかし、いくら洗っても、羽は白くならなかった。それどころか、餌が不足して、彼はとうとう死んでしまった。 教訓。習慣を変えても、本質は変わらない。 ペリー398 、チャーリス45 、トムスンモチーフインデックスW181.3、この話の系統は、アプトニオス。 37、山羊と山羊飼い。 山羊飼いは、群からはぐれた、山羊を連れ戻そうと、やっきになっていた。彼は、口笛を吹いたり、角笛を吹き鳴らしたりと、おおわらわだったが、当の山羊は、全く意に介さぬようだった。 とうとう、山羊飼いは、山羊に向かって、石をナゲツケタ。すると、石が、山羊のツノに当たって、ツノが折れてしまった。  山羊飼いは、どうか、このことは主人には内緒にしてくれと、山羊に頼んだ。すると、山羊はこう答えた。 「あなたは、どうかしていますよ、私が黙っていようとも、このツノが、黙ってイマセンヨ」 教訓。ヒトメで分かるようなものを、隠そうとしても無駄である。 ペリー280 、シャンブリ15、パエドルス6.24 、バブリオス3 、トムスンモチーフインデックスJ1082.1 、この話の系統は、バブリオス。 38、守銭奴。  金にうるさい男が、全財産を売り飛ばし、それを金塊に変えた。彼は、金塊をフルベイの脇の畑に埋めると、毎日ミニイッタ。  しかし、彼がしょっちゅうそこへ行くのを、使用人の一人が不審に思い、何をしているのか、探りを入れた。使用人は、すぐに、宝が隠してあるのを、嗅ぎ当てると、そこを掘り返し、金塊を盗んでしまった。  守銭奴は、金塊が盗まれたことに気付くと、髪の毛を掻きむしり、大声で泣きわめいた。隣に住む人が、泣きわめく彼を見て、事の次第を見て取ると、こんなふうに言った。 「お前さん、そんなに悲しむことはありませんよ。何処かで石でも拾ってらっしゃい。そして、それを金塊だと思って、お埋めなさい。どのみち、お前さんにとっては、オナジコトですからね」 教訓。使わなければ、持ってないのも同じ。 ペリー225 、シャンブリ344、エソポ2.11 、ジェイコブス63 、チャーリス78 、ラ・フォンテーヌ4.20 、トムスンモチーフインデックスJ1061.4 、この話の系統は、イソップの原典。 39、病気のライオン。    寄る年波には勝てずに衰えて、力では、エモノヲトレナクナッタ、ライオンが、策略によって、獲物を獲ることにした。彼は洞穴に横たわって、病気の振りをした。そして、自分が病気であることが、世間に、知れ渡るようにと画策した。  獣たちは、悲しみを伝えようと、一匹づつ、洞穴へとやって来た。すると、ライオンは、やって来た獣たちを、片っ端からむさぼり食った。こうして、多くの獣たちが姿を消した。  狐は、このカラクリに気付き、ライオンのところへやって来ると、洞穴の外に立ち、うやうやしく、ライオンの加減を尋ねた。 「どうもよくないのだ。」  ライオンはこう答えると、更にこう言った。 「ところで、なぜ、お前は、そんな所に立っているのだ。 話が聞こえるように、中に入ってこい」  すると狐がこう答えた。 「だって、洞窟の中へ、入って行く足跡は、たくさんあるのに、出てくる足跡が、ヒトツモミアタラナイノデスモノ」 教訓。他人の災難は、人を賢くする。 ペリー142 、シャンブリ196 、バブリオス103 、キャクストン4.12 、エソポ2.45 、ジェイコブス73 、ラ・フォンテーヌ6.14、パンチャタントラ3.4, 5.10 、トムスンモチーフインデックスJ644.1、この話の系統は、イソップの原典。 40、馬とベットウ。  ベットウは、日がな一日、馬を櫛ですいてやったり、こすってやったりしていた。しかし、同時に、餌の大麦を盗んでは、売り飛ばし、自分の懐を肥やしていた。  馬は、このことに気付いて、こう言った。 「もし、私に元気でいてもらいたいなら、手入れは程々でよいですから、もっと食糧を下さい」 ペリー319 、シャンブリ140、バブリオス83 、トムスンモチーフインデックスJ1914、この話の系統は、バブリオス。 41、驢馬と愛玩ケン。  ある男が、マルタ種のこ犬と、驢馬を飼っていた。  こ犬は、芸が、たくさん出来たので、主人に大変可愛がられた。いっぽう、驢馬は、ほかの仲間と同じように、大麦や干し草を、じゅうぶんに与えられてはいたが、臼をひいたり、森から木を運んだり、農場から荷物を運んだりと、大変こき使われていた。驢馬は、こ犬の、優雅で安逸な、暮らしぶりをウラヤミ、自分の境遇を嘆いてばかりいた。  ある日のこと、ついに、驢馬は、手綱や、はづなを引き裂いて、ギャロップしながら、主人の家へと向かった。そして、加減も知らずに、蹄で戸を、蹴破ると、家の中に入り込み、めいいっぱい、はしゃいだ。そして、犬の真似をして、主人の周りを跳ね回った。すると、その勢いで、テーブルは壊れ、皿は、こっぱ微塵に砕け散った。そして、お次は主人をなめ回し、背中にじゃれて跳び乗った。  使用人たちは、この騒動を聞きつけて、主人の一大事と、飛んで来ると、驢馬を蹴飛ばし、棒で叩き、平手打ちを喰らわせて、厩舎へ、たたき込んだ。  自分のバボウに戻され、死ぬほど、打ち据えられた驢馬は、こんなふうに嘆いた。 「ああ、なんてことだ、これも皆、自業自得だ。おいらは、なぜ、仲間と一緒に、仕事に精を出さなかったんだろう。 あの役立たずの、こ犬のように、一日中、安逸をむさぼろうなど、土台無理な話だったのだ。」 ペリー91 、シャンブリ275 、バブリオス129 、キャクストン1.17 、エソポ1.9 、イソホ2.22 、ジェイコブス10 、チャーリス53 、ラ・フォンテーヌ4.5 、狐ラインケ3.9 、トムスンモチーフインデックスJ2413.1 、この話の系統は、バブリオス。 42、牝のライオン。  子供を、一番多く、産むことのできるのは誰か。と、いうような論争が、野に棲む獣たちの間に、持ち上がった。  獣たちは、論争に、決着をつけてもらおうと、牝のライオンのところへ、がやがやと押し掛けて行った。 「ライオンさんは、一度に、何人の子供を、お産みになりますか。」  獣たちが、牝のライオンに尋ねた。すると彼女は、笑いながらこう答えた。 「なぜ、そんなことを気にするのです。 私は、たった一匹しか産みませんよ。でも、その子は、間違いなく、ライオンの子です」 教訓。量より質。 ペリー257 、シャンブリ194、トムスンモチーフインデックスJ281.1、この話の系統は、イソップの原典。 43、旅先での出来事を、ジマンバナシする、ゴシュキョウギの選手。  よその国々を旅してきた、ゴシュキョウギの選手が、故郷に帰って来て、かの国々でおこなった、数々の英雄的な、偉業について、いたく自慢した。とりわけ、ロードス島では、大変なジャンプを行い、その距離は、かつて、些かでも、その近くまで跳躍した者がいないという程の大ジャンプで、ロードス島には、その偉業を見届け、証人となってくれる者も大勢いる。と、彼は語った。すると、そばで聞いていた一人の男が、彼の話を遮って、こんなことを言った。 「よし分かった、英雄サンヨ、もし、その話が本当なら、証人などいらない。さあ、ここがロードスだ。ここで跳べ。」 ペリー33 、シャンブリ51、トムスンモチーフインデックスJ1477 、この話の系統は、イソップの原典。 44、猫と雄鶏。  猫が、雄鶏を捕まえた。そして、このニワトリを食べるのに、なにかもっともらしい理由はないかと考えた。そこで、猫は、雄鶏に、お前は、夜、うるさく鳴いて、人の眠りを妨げる。と、イチャモンヲツケタ。  すると、雄鶏は、自分が鳴くのは、人が仕事に遅れぬように、起こすためで、人の役に立っているのだ。と、弁解した。  すると、猫はこう言った。 「もっともらしい言い訳は、いくらでも出てくるだろうが、だが、俺様は、夕食抜きで、いるつもりはないのだ。」 猫はそう言うと、夕食に取りかかった。 ペリー16 、シャンブリ12、キャクストン6.4 、チャーリス20 、トムスンモチーフインデックスU31.1、 U33 、この話の系統は、イソップの原典。 45、こ豚と山羊と羊。  こ豚が、山羊と羊と共に、柵の中に閉じこめられた。ある時、羊飼いが、こ豚を捕まえようと、おさえつけた。すると、こ豚は、ブヒブヒ喚き散らし、激しく抵抗した。羊と山羊は、その喚きゴエにうんざりして、文句を言った。 「我々もしょっちゅう、彼に捕まえられるけど、そんなに泣き喚いたりしないよ。」  すると、こ豚が言った。 「あんたらと、僕とでは、事情が違うよ。彼があんたらを捕まえるのは、毛やお乳をとるためだけど、僕をおさえつけるのは、肉をとるためなんだから。」 ペリー85 、シャンブリ94 、ラ・フォンテーヌ8.12 、トムスンモチーフインデックスJ1733、イソップの伝記48、この話の系統は、イソップの原典。 46、少年とハシバミの実。  少年は、ハシバミの実が、たくさん入った壷に、手を突っ込み、つかめるだけつかんだ。しかし、壷から手を抜こうとして、途中で手が引っかかり、抜けなくなってしまった。それでも、少年は、ハシバミの実を、諦めようとはせずに、渋っていたので、依然手は抜けぬまま、少年は、涙を流して、身の不幸を嘆いた。  すると、そばにいた人が、こう言った。 「半分で我慢しなさい。そうすれば、すぐに抜けるよ。」 教訓。一度に、欲張るな。 チャーリス92、日本昔話つうかん866、この話は、元々は、イソップ寓話ではない。 47。恋をしたライオン。  ライオンが、樵の娘に恋をして、結婚を申し込んだ。父親は、ライオンになど、娘をやりたくなかったのだが、怖くて、断れなかった。  と、彼は、ふと、名案が浮かんだ。彼はライオンに、娘が恐がるといけないので、牙を抜き、爪を切るようにと言ったのだ。ライオンは、二つ返事で承知した。  ライオンが、牙を抜き、爪を切って戻って来た時、樵は、もうライオンを、恐れなかった。彼は、コンボウをふるって、ライオンを森へと追いやった。 ペリー140 、シャンブリ198 、バブリオス98 、ジェイコブス71 、ラ・フォンテーヌ4.1 、トムスンモチーフインデックスJ642.1 、この話の系統は、イソップの原典。 48、人と蛇。  ある家の庭先に、蛇の穴があった。その蛇は、その家の子供を噛んで、殺してしまった。父親は、子供の死を悲しみ、蛇への復讐を誓った。  翌日、蛇が餌を獲りに、穴から這い出して来ると、彼は斧を握りしめ、蛇めがけて、振り下ろした。しかし、慌てていたため、ねらいが外れ、しっぽを切っただけで、頭を真っ二つにすることは、出来なかった。  そのご、しばらくして、男は、自分もまた、蛇に噛まれてしまうのではないかと恐れ、蛇の穴に、パンと塩を置いて、仲直りをしようとした。蛇は、シュルシュルと舌を鳴らして、こんなことを言った。 「我々は、仲直りなどできない。私は、あなたを見れば、尻尾を無くしたことを、思い出すだろうし、あなただって、私を見れば、子供の死を、思い出すだろうからね。」 教訓。傷を負わされた者は、決して、その痛みを忘れない。特に、そのかたきが、目の前にいる時には。 ペリー51 、シャンブリ81、ジェイコブス6 、トムスンモチーフインデックスJ15 、この話の系統は、イソップの原典。 49、羊の皮をかぶった狼。    昔、ある狼は、餌を楽して獲ろうと、羊の皮をかぶって、変装した。そして、羊飼いの目をすり抜けて、牧場の中へと潜り込んだ。  夕方、羊飼いは、狼に、気付くことなく、牧場の扉をしっかりと閉ざして、帰って行った。  狼は、ほくそ笑んだ。ところが、その夜の内に、羊飼いが、翌日の食糧を確保しようと戻ってきた。そして、狼は、羊と間違えられて殺された。 教訓。悪の栄えたためしなし。 ペリー451、ジェイコブス39 、チャーリス91 、トムスンモチーフインデックスK828.1。この話は、ニケポロス・バシラキスの、弁論術の準備よりとられた話。 50、驢馬と騾馬。  ある馬方が、驢馬と騾馬に、たくさんの荷を積んで、運んでいた。  驢馬は、平らな道では、苦もなく運んだが、山にさしかかり、急な坂道を登り始めると、重荷に耐えられなくなった。そこで、驢馬は、相方の騾馬に、少しでよいから、荷物を肩代わりしてくれるようにと頼んだ。しかし騾馬は、取り合おうともしなかった。  そのごすぐに、驢馬は、地面に崩れ落ち、荷物の下で息絶えた。山奥のことなので、馬方は、ほかにしようがなく、騾馬の荷物に、今まで驢馬が運んでいた荷物を載せ、さらに、驢馬の皮を剥ぐと、それを、一番うえに積んだ。  騾馬は、重い荷物に喘いで、一人ごちた。 「これも、自業自得というものだ。もし、あの時、驢馬のちょっとした願いを、聞いてやっていたなら、こんなことにはならなかったのに。それにしても、まさか、奴のことまで、背負う羽目になるとはな。」 ペリー181 、シャンブリ141、バブリオス7 、エソポ2.13 、ラ・フォンテーヌ6.16 、トムスンモチーフインデックスW155.1、この話の系統は、イソップの原典。 51、王様を求める蛙たち。    蛙たちは、自分たちに、支配者がいないのを悲しんで、ジュピターに使者を送り、王様を賜りたいとお願いした。ジュピターは、蛙たちが馬鹿なのを知っていたので、太い丸太を池に落としてやった。蛙たちは、その水しぶきにびっくりして、池の深みに隠れた。しかし、彼らは、丸太が動かないことに気付くと、水面に出てきて、今まで怯えていたのも忘れて、丸太の王様に上がり、馬鹿にして座り込んだ。  しばらくすると、蛙たちは、こんな、動かない王様を戴いているのは、こけんに関わると思い、ジュピターに、二番目の使者を送って、別な王様を戴きたいとお願いした。そこでジュピターは、支配者として、ウナギを使わした。しかし、蛙たちは、ウナギの御しやすい性質を見て取ると、三度目の使節を送って、またしても、別な王様を与えてくれるようにとお願いした。ジュピターは、蛙の度重なる申し立てに、腹を立て、今度は、鷺を送り込んだ。  鷺は、来る日も来る日も蛙を捕らえて食べたので、池には、クレロ・クレロと鳴いて不平を言う者は、一匹もいなくなった。 ペリー44 、シャンブリ66、パエドルス1.2 、キャクストン2.1 、エソポ1.12 、イソホ2.25 、ジェイコブス13 、チャーリス15 、ラ・フォンテーヌ3.4、クルイロフ2.1、狐ラインケ1.24 、トムスンモチーフインデックスJ643.1、この話の系統は、イソップの原典。 52、少年たちと蛙たち。    男の子たちは、池の近くで遊んでいたのだが、池に、蛙の群を見つけると、石を投げつけて、なんびきか殺した。  すると、一匹の蛙が水の中から顔を出して叫んだ。 「子供たちよ、やめるのだ。君たちが、戯れでやっていることは、我々の命に関わることなのだ。」 チャーリス42、この話の系統は、不明。 53、病気の鹿。  病気の鹿が、静かな草原の片隅で、横になっていた。そこへ、病気の見舞いと称して、仲間が大挙して押し掛け、蓄えておいた、食糧を、食い荒らした。  それからまもなくして、シカは死んだ。死因は、餓死だった。 教訓。悪い仲間は、利益よりも被害をもたらす。 ペリー305 、バブリオス46 、チャーリス105 、ラ・フォンテーヌ12.6 、トムスンモチーフインデックスW151.2.1、この話の系統は、バブリオス。 54、塩商人と驢馬。  ある行商人が、塩の買い付けをするために、驢馬を連れて、海岸へと向かった。  商いも無事終わり、商人は宿へ帰ろうと、とある小川にさしかかった。と、その時、驢馬が、何かに躓いて、川へおっこちた。驢馬が起きあがった時、塩は水に溶け、荷物は、軽くなっていた。 商人は引き返し、まえよりも、たくさんの塩を、袋に詰め込んだ。  それから、また、先ほどの小川までやって来た。すると、今度は、驢馬はわざと倒れた。そして、荷物が軽くなるのを見計らって起きあがり、してやったりと嘶いた。  商人は、驢馬の計略を見て取ると、またもや、海岸へと引き返し、今度は、塩の代わりに、海綿を買い付けた。  驢馬は、流れにさしかかると、今度もわざと倒れた。しかし、海綿は、水を吸って膨らみ、今度は、倍の重さの荷を、背負う羽目になった。 ペリー180 、シャンブリ265、バブリオス111 、ラ・フォンテーヌ2.10 、トムスンモチーフインデックスJ1612 、この話の系統は、バブリオス。 55、牡牛たちと肉屋。  むかしのこと、牡牛たちは、肉屋が、この世からいなくなればよいと考えた。と言うのも、肉屋は、牛たちを殺戮することを、なりわいとしているからだ。  牡牛たちは、日時を示し合わせて、終結スルト、戦を前に、ツノの手入れに余念がなかった。しかし、彼らの中に、大変年老いた牛がいた。彼は、長年、畑を耕してきたのだが、そんな彼がこんなことを言った。 「肉屋が、我々を殺すのは紛れもない事実だ。しかし、彼らは手慣れている。もし、彼らを抹殺してしまったら、我々は、未熟な者の手に落ち、倍の苦しみを味わいながら死ぬことになるだろう。肉屋がいなくなっても、人間は牛肉を食べるのを、やめぬだろうからな。」 教訓。悪をトリノゾコウトシテ、別な悪を招来しては、何にもならない。物事は、深く考えてから、行え。 ペリー290 、バブリオス21 、トムスンモチーフインデックス215.2、この話の系統は、バブリオス。 56、ライオンと、鼠と狐。  夏のある日、ライオンは、暑さにやられて、穴蔵で、眠りほうけていた。すると、一匹の鼠が、たてがみや、耳を駆けのぼり、彼の眠りを妨げた。ライオンは、起きあがると、いかりで身を震わせ、そして、鼠を見つけようと、穴の隅々を探しまわった。  それを見ていた狐が、こう言った。 「あなたのような、立派なかたが、鼠一匹を、恐れるとは。」  するとライオンがこう答えた。 「私は、鼠を恐れたのではない。奴の、不作法な振る舞に、腹が立ったのだ。」 教訓。ちょっとした不作法が、相手には、大変な不快と感じられることがある。 ペリー146 、シャンブリ213 、バブリオス82 、トムスンモチーフインデックスJ411.8、この話の系統は、イソップの原典。 注意:原典などでは、ライオンは鼠の振る舞いに腹を立てたのではなく、ライオンの上を駆け抜ける度胸のある者に、驚いた。という話になっている。 57、虚飾で彩られた烏。    ある、言い伝えによると、ジュピターは、鳥たちの王様を、決めようとしたことが、あったそうだ。ジュピターは、鳥たちの集まる日時を決め、その中で一番美しい者を、王様にするというお触れを出した。  烏は、自分が醜いことを知っていたので、美しく装うために、野や森を見てまわり、他の鳥たちが落とした、羽を拾い集め、からだじゅうに、貼りつけた。  約束の日、鳥たちは、ジュピターの前に集まった。そして、色とりどりの羽で、着飾った烏も姿を見せた。ジュピターは、烏の羽が美しいので、彼を、王様にしようとした。   すると、鳥たちは、憤然と異議を申し立て、それぞれ自分の羽を烏から引き抜いた。  結局、烏に残されたのは、自分自身の羽だけだった。 ペリー101 、シャンブリ162、バブリオス72 、チャーリス51 、トムスンモチーフインデックスJ951.2、この話の系統は、イソップの原典。 58、山羊飼いと、野生の山羊。  夕暮れどき、山羊飼いが、山羊の群を放牧地から移動させていると、群の中に、野生の山羊が混ざっていることに気が付いた。そこで、彼は、野生の山羊たちを、自分の群と一緒に、囲いの中に、入れておくことにした。  翌日、雪が激しく降り、山羊飼いは、山羊たちを、いつもの牧草地へ、連れて行く事ができずに、やむなく、群を囲いの中に留めておいた。そして、彼は、自分の山羊には、飢え死にしない程度にしか、餌を与えなかったが、新参者たちには、たくさん餌を与えた。と、いうのも、こうすれば、彼らを、うまく手なずけられるのではないかと、考えたからだった。  翌日、雪が溶けはじめると、山羊飼いは、山羊たちを牧草地へと連れて行った。ところが、野生の山羊たちは、一目散に山の奥へと逃げて行った。彼は、逃げて行く山羊たちに向かって、吹雪の時に、自分の山羊に倍して、あんなに世話をしてやったのに、逃げて行くとは、なんと恩知らずなんだ。と叫んだ。すると、一匹がくるりと振り向いて、こんな事を言った。 「我々が、こんなに用心するのは、そこなんですよ。あなたは、長年慣れ親しんだ山羊たちよりも、我々を大切にした。と、いうことは、もし、我々の後に、また、別の者がやってきたら、あなたは、同じように、新しい方を、大切にするでしょうからね。」 教訓。新しい友人のために、古くからの友人を、裏切る者は、その報いを必ず受ける。 ペリー6 、シャンブリ17、バブリオス45、クルイロフ7.13 、トムスンモチーフインデックスJ345.1 、この話の系統は、イソップの原典。 59、人を噛む犬。  その犬は、人を見ると、気付かれぬように、そおっと駆け寄り、背後から踵を、ガブリと噛んだ。  こんなことをしょっちゅうしたもので、飼い主は、犬の首に鈴をつけた。犬は、この鈴を、栄誉の印だと思い、誇らし気に、市場を、リンリン鳴らして練り歩いた。  すると、年老いた犬が、彼に言った。 「お前は、なぜ、そんな恥さらしな真似をしているんだね。いいかね、お前のつけているその鈴は、何の価値もないんだよ。それどころか、噛む癖のある奴が来るのを、知らせるための不名誉のしるしさ。」 教訓。悪名は、しばしば名声と勘違いされる。 ペリー332 、シャンブリ186 、バブリオス104、アウィアヌス・7 、キャクストン7.6 、チャーリス69 、トムスンモチーフインデックスJ953.1 、この話の系統は、バブリオス。 60、尻尾をなくした狐。  ある狐が、罠に掛かり、なんとか、逃げおおすことは出来たのだが、その時に尻尾を失った。  それ以来、狐は、嘲笑と、恥辱にまみれて、苦しんだ。  そこで、彼は、尻尾のないことを、なんとか繕うために、一計を巡らせた。狐は、仲間を集めると、役に立たない尻尾など、ない方が見栄えが善いし、それに、身軽になれると言って、皆も、尻尾を切るようにと勧めた。  すると、一匹の狐がこう言った。 「君も、尻尾を失うようなことがなかったら、我々を、説得しようなどとは、考えなかっただろうにね。」 ペリー17 、シャンブリ41、ジェイコブス65 、チャーリス90 、ラ・フォンテーヌ5.5 、トムスンモチーフインデックスJ758.1 、この話の系統は、イソップの原典。 第ニ部終わり。 お気づきの点がございましたら、お知らせください。 http://aesopus.web.fc2.com/ ハナマタカシ。