121、ミツバチとジュピター。  ある女王バチが、ジュピターに、ハチミツをプレゼントしようと、オリンポスへと昇って行った。  ジュピターは、ハチミツを痛く気に入り、彼女の望むものなら何でも与えると約束した。  そこで、彼女は、次のようなお願いをした。 「偉大なるジュピター様。私は、ミツを盗みにくる、人間を殺すために、針が欲しいのです。」  ジュピターは、人間を愛していたので、その願いを大変不快に思ったが、約束は約束なので、彼女の望みを断ることができなかった。そこで、ジュピターは、彼女にこんなふうに応えた。 「おまえの望みは叶えてやる。だが、もし、おまえが、その針を使うならば、おまえ自身の命も危ういものになるだろう。おまえの刺した針は、傷口から抜けることはない。そして、その針を失うとき、おまえは死ぬ。」 教訓。人を呪わば穴二つ。 ペリー163 、シャンブリ234 、キャクストン6.12 、チャーリス108 、トムスンモチーフインデックスA2232.2 、この話の系統は、イソップの原典。 122、乳搾りの娘と、ミルク桶。  ある農家の娘が、楽し気なことを空想しながら、ミルク桶を頭に乗せて運んでいた。 「このミルクを売ったお金で、少なくとも300個の卵が買えるわね。・・・そして、どんなに悪くても卵から200の雛が孵るわ。・・・そして、50羽は、親どりに成長するわよ。・・・ちょうどその頃は、とり肉が一番高値で取引される時期だわ。・・・すると、年の瀬までには、新しいドレスが買えるわよ。・・・そのドレスを着てクリスマスパーティーに出かけるのよ。・・・若い殿方は、みな私にプロポーズしてくるわ。・・・でもあたしは、つれなく頭をつんともたげて、皆の申し出を断るのよ。」  と、彼女は夢中になって頭を揺らした瞬間、ミルク桶が地面に落ちてしまった。そして、彼女の壮大な計画は、一瞬にして潰えてしまった。 捕らぬ狸の皮算用。 ジェイコブス76 、チャーリス106 、ラ・フォンテーヌ7.9、パンチャタントラ5.9、グリムKHM164、この話の系統は、パンチャタントラ。 123、海辺を歩いている旅人。  海辺を歩いていた旅人たちが、高い岸壁に登り、海を見渡した。すると、彼方に大きな船が見えた。旅人たちは、船が入港するのを、ヒトメ見ようと、待つことにした。しかし、船が風に流され、岸に近づくに従い、それは、単なる小舟であることが分かった。それどころか、小舟が浜に漂着した時には、木の束となっていた。 教訓。希望的観測は、裏切られるものと、相場が決まっている。 ペリー177 、シャンブリ258、ラ・フォンテーヌ4.10 、トムスンモチーフインデックスK1886.4、この話の系統は、イソップの原典。 124、鍛冶屋と彼の犬。  ある鍛冶屋が小犬を飼っていた。彼はその小犬を大変可愛がり、いつもそばにおいていた。小犬は、主人が仕事をしている間は寝ているが、主人が、食事を始めると目を覚まし、お相伴に預かろうと尻尾を振る。  ある日の事、鍛冶屋は怒ったふりをして、小犬にステッキを振り上げながらこう言った。 「こら、怠け者のチビスケめ。 おまえときたら、わしが、カナトコに、ハンマーを、振り下ろしている間は、寝ておるくせに、わしが、食事を始めると、目を覚まし、餌をくれよとせがみよる。よいか、働かずには、何も得られぬのじゃぞ。働かざる者食うべからずという諺を知らぬのか。」 ペリー415 、シャンブリ345、トムスンモチーフインデックスW111.5.4 、この話の系統は、シュテンパス。 125、驢馬の陰。  ある人が、遠くの町へ行くために、驢馬と馬方を雇った。その日は、太陽の日差しが強烈で、とても暑かった。旅人は、一休みしようと驢馬を止め、日差しから逃れるために、驢馬の影にもぐりこもうとした。しかしあいにく、陰は一人分のスペースしかなかった。  すると馬方が言った。 「あんたに貸したのは、驢馬だけで、驢馬の陰は貸していない。」  すると旅人が答えた。 「そんなことはない。驢馬と一緒に、驢馬の陰も借りたのだ。」  口論はいつしか殴り合いの喧嘩へと発展した。と、その隙に、驢馬はどこかへ駆けていってしまった。 教訓。陰のことで争っているうちに、実体を失うことは、よくあることだ。 ペリー460、チャーリス113 、トムスンモチーフインデックスJ1169.7, K477.2、この話の系統は、プルタルコス「十大弁論家伝」848a。 注意。ペリー460、ペリー63、を参照のこと。 126、驢馬と飼い主。  薬売りに飼われていた驢馬は、ほんの少しの食料で、大変こき使われていたので、今の仕事から解放され、別な主人に仕えたいと、ジュピターにお願いした。ジュピターは、「あとで悔やむなよ。」と警告して、驢馬が煉瓦職人のところへ売られて行くように、取り計らってやった。  するとすぐに、驢馬は、そこでの仕事が以前よりも、重労働であることを、思い知らされた。そこで驢馬は、もう一度、ジュピターに、主人を変えてくれるようにとお願いした。ジュピターは、これが最後だと言って、驢馬が、革なめ職人の所へ、売られて行くようにしてやった。  驢馬は、主人の職業を知ってこんなふうに嘆いた。 「前の主人に仕えて、ひもじい思いや、重労働をしていた方が、まだましだった。今度のご主人は、おいらが死んだ後にも、皮をはいで、こき使うつもりなんだから。」 ペリー179 、シャンブリ273 、ラ・フォンテーヌ6.11 、トムスンモチーフインデックスN255.2、この話の系統は、イソップの原典。 127、樫の木と蘆たち。  とても大きな樫の木が、風になぎ倒され、川に投じられると、蘆の生えているところへと流されて行った。  樫は、蘆にこんなことを言った。 「お前たちは、そんなに細くて弱いくせに、どうして、あんなに強い風を受けても、平気でいられるのだ?」  すると、蘆たちがこんなふうに応えた。 「あなたは、風と戦おうとしたのですから、身を滅ぼすのも当然です。私たちは、ほんのそよ風にも頭を垂れます。だから、無事でいられるのです。」 教訓。負けるが勝ちよ。 ペリー70 、シャンブリ143、バブリオス36、アウィアヌス・16 、キャクストン4.20 、エソポ2.3 、ジェイコブス37 、チャーリス58 、ラ・フォンテーヌ1.22、クルイロフ1.2 、パンチャタントラ1.122, 3.19, 3.20, この話の系統は、バブリオス。 128、漁夫と小魚。  ある漁夫が、海で網を投じていたのだが、一日かかって捕まえたのは、小魚一匹だけだった。  小魚は、体をぴちぴち震わせながら、悲鳴を上げてこう言った。 「漁師さん。私はまだほんの小魚です。どうか海に帰して下さい。あなたの食材として見合うだけの大きさになったら、その時、改めて捕まえて下さい。」  すると、漁夫はこう答えた。 「あやふやな希望をアテニシテ、手の中にある確実な利益を、放り出すとするならば、私は、とんでもない間抜けだろうよ。」 ペリー18 、シャンブリ26 、バブリオス6、アウィアヌス・20 、キャクストン7.16 、ジェイコブス53 、チャーリス52 、ラ・フォンテーヌ5.3 、トムスンモチーフインデックスJ321.2 、この話の系統は、イソップの原典。 129、狩人と樵。  ある狩人が、ライオンの跡を追い掛けていた。彼は、森で樵に出合うと、「ライオンの足跡を、ミカケナカッタカ?」と訊ねた。  すると樵はこう答えた。 「よし、今から、ライオンのところへ、連れていってやろう。」  すると猟師は、真っ青になって、歯をがたがた震わせてこう答えた。 「いや、いいんだ。私の探しているのは、ライオンの足跡で、ライオンではない。」 教訓。口先だけでは勇者にはなれない。 ペリー326 、シャンブリ93、バブリオス92 、ラ・フォンテーヌ6.2 、トムスンモチーフインデックスW121.1、この話の系統は、バブリオス。 130、猪と狐。  ある猪が、木の幹で牙を磨いていた。そこへ狐が通りかかり、「猟師や猟犬がいるわけでもないのに、なぜ、牙を磨いたりしているのか?」と、訊ねた。  すると、猪はこんなふうに答えた。 「用心のためだよ。だって、いざ、この武器を、使う段になってから、研ごうとしても、手遅れだからね。」 ペリー224 、シャンブリ327、チャーリス119 、トムスンモチーフインデックスJ674.1 、この話の系統は、イソップの原典。 131、農場にいるライオン。  ライオンが農場に入り込んだので、農夫は、そいつを捕まえようと門を閉ざした。ライオンは、逃げられないと分かると、羊たちに跳びかかり、そして、牡牛たちにも襲いかかった。  農夫はこのままでは、自分もやられてしまうと思い、扉を開いた。ライオンが出て行くと、農夫は、羊や牡牛の無惨な死体を見て、嘆き悲しんだ。  すると、一部始終を見ていた妻がこう言った。 「こうなったのも当然よ。だって、うなりごえを聞いただけで、震え出すあなたが、ヨリニヨッテ、自分の農場に、ライオンを閉じこめようなんて、よくそんなこと思いついたものね。呆れて物が言えないわ!」 ペリー144 、シャンブリ197、トムスンモチーフインデックスJ2172.2 、この話の系統は、イソップの原典。 132、マーキュリーと彫刻家。  ある時、マーキュリーは、人間がどれくらい、自分を敬っているか、確かめてみようと思った。そこで、人間の姿に身をやつし、沢山の彫像が陳列してある彫刻家の工房を訪れた。  まず彼は、ジュピターとジュノーのシンゾウの値段を尋ねてみた。そして次に、自分のシンゾウを指してこんなことを言った。 「こっちのシンゾウは、もっと高いんだろうね。 なんたって、こっちは神々の伝令であり、それに、富を司る神様なんだからね。」  すると、彫刻家はこう答えた。 「分かりました。もし、あなたが、ジュピターとジュノーの両方を、お買い上げ下さるのなら、マーキュリーは、おまけします。」 ペリー88 、シャンブリ108 、トムスンモチーフインデックスL417 、この話の系統は、イソップの原典。 133、白鳥と鵞鳥。  大変金持ちの男が、市場で鵞鳥と白鳥を買い、一匹は、食卓に供するために、もう一匹は、歌声を聞くために、餌を与えて飼っていた。そして、とうとう鵞鳥が殺される日が来た。  夜、料理人が鵞鳥を捕まえに行った。しかし、暗かったので、鵞鳥と白鳥を見間違えて、取り違えてしまった。  死の、恐怖が迫った時、白鳥は突然歌い出し、自分が何者であるかを知らせた。こうして白鳥は、自分の歌声で命拾いをした。 教訓。芸は身を助ける。 ペリー399 、シャンブリ173 、ラ・フォンテーヌ3.12 、トムスンモチーフインデックスN651、この話の系統は、アプトニウス。 134、腹の膨れた狐。  腹をすかせた狐が、羊飼いが、樫の木の洞に忘れていった、パンと肉を見つけると、その穴に入って、たらふく食べた。しかし、すっかり食べてしまうと、腹がぱんぱんに膨れて、そこから抜け出せなくなっていた。  狐がこの不運を嘆き悲しんでいると、その声を聞きつけて、仲間の狐がやってきた。そして、事の次第を知ってこう言った。 「まあ、そう嘆くなよ。入った時と同じ姿になれば、簡単に出られるさ。」 ペリー24 、シャンブリ30 、バブリオス86 、エソポ2.24 、ラ・フォンテーヌ3.17 、トムスンモチーフインデックスK1022.1 、この話の系統は、イソップの原典。 135、狐と樵。  狐が猟犬に追われて、樵のところへやってきた。狐は樵に、身を隠す場所を乞うた。樵は、自分の小屋に隠れるようにと勧めた。そこで狐は、小屋の隅に身を潜めた。  すぐに、猟師が猟犬と共にやって来た。そして樵に、狐をミカケナカッタカ? と尋ねた。樵は、見なかったと答えたが、応えている間ずうっと、狐の隠れている小屋をゆびさしていた。しかし、猟師は、その合図に気付かずに、樵の言葉だけを信じて、先を急いだ。  猟師たちが遠くへ行ってしまうと、すぐに狐は出てきた。そして、樵に一瞥もくれずにそこから去って行こうとした。樵は、狐を呼び止めると、咎めだててこう言った。 「まったく、命を救ってもらったくせに、お礼の一つも言わずに出て行くとは、なんて恩知らずな奴なんだ。」  すると狐がこう応えた。 「あなたの振る舞いが、あなたの言葉と同じだったら、いくらでもお礼を言うのですがね。」 ペリー22 、シャンブリ34、パエドルス6.28 、バブリオス50 、キャクストン4.3 、エソポ1.22 、イソホ2.38 、トムスンモチーフインデックスK2315、この話の系統は、イソップの原典。 136、鳥刺しと、鷓鴣と鶏。  鳥刺しが、ハーブ料理を食べようとしていると、不意に友人がやって来た。しかし、鳥刺しは、鳥の一羽も捕まえておらず、鳥の罠は空だった。そこで、デコイとして飼い慣らしていた、まだらの鷓鴣を絞めなければならなくなった。  鷓鴣は、どうにか命ばかりは助けてもらおうと、こんなふうに懇願した。 「次に網をはるときに、私がいなくとも平気なのですか。 結束の堅い鳥の群を呼び寄せているのは誰なのです。 あなたが寝るときに、子守歌を歌っているのは誰なのですか。」  これを聞くと、鳥刺しは、鷓鴣を絞めるのを、ヤメニシタ。そこで今度は、鶏冠が生えたばかりの、若い元気な雄鶏を絞めることにした。すると、止まり木の雄鶏は、哀れな声でこんなふうに言った。 「私を殺してしまったら、誰が夜明けを知らせるのですか。 日々の仕事に、遅れないように、起こしたり、朝、鳥の罠を見回る時間を知らせているのは誰なのですか。」  すると鳥刺しはこう応えた。 「おまえの言うことは正しい。 おまえは、時間を教えてくれるから大切な鳥だ。でも、友人と私は、夕食を食べなければならない。」 背に腹はかえられない。 ペリー361、バブリオス124 、トムスンモチーフインデックスU33、この話の系統は、バブリオス。 137、猿と漁夫。  猿が、高い木の上に座って、漁夫たちが川に網を投じるのをじいっと観察していた。しばらくすると、漁夫たちは、食事のために、土手に網を残して帰って行った。  ものまねやの猿は、木のてっぺんからおりて行き、漁師たちの真似をしようと、網をとって、川の中へ投じた。しかし網が体に絡みつき、猿は溺れてしまった。  猿は、死に際に独りごちた。 「こんな目に遭うのも当たり前だ。網など扱ったこともナイモノガ、魚を捕らえようとするなんて、一体どういう了見だったのだろう。」 ペリー203 、シャンブリ304、クルイロフ1.14 、この話の系統は、イソップの原典。 138、蚤と格闘家。  蚤は、格闘家の足にとりつくと、その足を、がぶりと咬んだ。格闘家は、たまらずに、ヘラクレスに、大声で、助けをもとめた。  その後、蚤がまた男の足に、トリツイタトキノコト、格闘家は呻きながらこう言った。 「ヘラクレス様。 蚤を相手にさえ、あなたのご加護が得られないというのに、強い格闘家と、闘う時に、あなたのご加護をどうして期待できるでしょうか。」 ペリー231 、シャンブリ356、ラ・フォンテーヌ8.5 、この話の系統は、イソップの原典。 139、二匹の蛙。  二匹の蛙が小さな池に棲んでいた。しかし、太陽の日差しで池は干上がってしまった。彼らは池を後にして、新天地を探しに出ていった。道を行くと、偶然に深い井戸に出くわした。見ると井戸は、満々と水を湛えている。  そこで一方の蛙がこう言った。 「この井戸を我々の住処にしよう。ここなら、餌はあるし、身も、隠せそうだ。」  すると、一方の蛙が、こんなふうに忠告した。 「でも、こんなに深くては、水がなくなったら、二度と、出られなくなるんじゃないのかい。」 教訓。結果を考えずに、事にあたってはならない。 ペリー43 、シャンブリ68 、トムスンモチーフインデックスJ752.1 、この話の系統は、イソップの原典。 140、猫と鼠たち。  あるところに、鼠で溢れかえっている、家があった。ある猫がそれに気づき、その家に入って行くと、鼠を一匹、また一匹と捕まえては、食べていった。鼠たちは、食べられるのを恐れて、巣穴に閉じこもった。猫は鼠が全く捕れなくなってしまったので、策略を用いて、鼠たちをおびき出さなければならないと思った。そこで、彼女は、釘に跳びつき、そこにぶら下がって、死んだ振りをした。  一匹の鼠がそおっと出てきて、彼女を見るとこう言った。 「たとえ、あなたが粉袋になったとしても、あなたのそばになど近寄るものですか。」 ペリー79、511 、シャンブリ13 ,パエドルス4.2, バブリオス17 、キャクストン6.8、4.2 、イソホ3.16 、ラ・フォンテーヌ3.18 、トムスンモチーフインデックスK2061.9 、この話の系統は、イソップの原典。 注意、タウンゼントの204は、ペリー511、パエドルス4.2。 141、ライオンと熊と狐。  ライオンと熊が、同時に同じこ山羊を射止めた。すると両者は、今度は獲物を独占しようと、熾烈な戦いを繰り広げた。戦いの末、両者とも、ひどい傷を負い、ふらふらになり、倒れてしまった。  この争いを、遠巻きに見ていた狐は、二匹がのびたのを、確認すると、両者の真ん中に、手つかずで横たわっている、こ山羊を奪うと、あらん限りの速さで跳ねて行った。  ライオンと熊は起きあがることも出来ずに、こう呻いた。 「ああ、忌々しい。我々は、狐に獲物をくれてやるために、闘っていたのか。」 とんびに油揚げさらわれた。 ペリー147 、シャンブリ200 、エソポ2.10 、トムスンモチーフインデックスK348、この話の系統は、イソップの原典。 142、牝ジカとライオン。  牝ジカが、猟師たちに激しく追い立てられて、ライオンの棲んでいる、洞穴へ逃げ込もうとした。ライオンは、鹿がやって来るのを見ると、身を隠し、彼女が洞穴に飛び込んだところを、襲いかかって、バラバラに引き裂いた。  鹿は絶叫した。 「ああ、なんてこと。 人間から逃れようと、逃げ込んだ穴が、野獣の口だなんて。」 教訓。一つの悪を避ける時には、別な悪の手に落ちぬように注意せよ。 ペリー76 、シャンブリ104、トムスンモチーフインデックスN255.1 、この話の系統は、イソップの原典。 143、農夫と狐。  農夫は、狐が鶏を盗むので大変憎んでいた。ある日のこと、農夫はついに狐を捕まえた。そして、徹底的に懲らしめてやろうと、縄を油に浸し、狐の尻尾に縛りつけて、火をつけた。突然の災難に、狐は、そこらじゅうを駆け回った。そして、ある畑へと入って行った。実はそこは、その農夫の畑だった。  畑はその時期、小麦の収穫の季節であった。たわわに実った小麦は、景気よく燃え上がり、跡には何も残らなかった。  農夫は悲嘆にくれて、家路についた。 教訓。腹を立てたにしても、無茶なことをしてはならぬ。 ペリー283 、シャンブリ58 、バブリオス11 、トムスンモチーフインデックスK2351.1.1、この話の系統は、バブリオス。 144、鴎とトンビ。  大きな魚を、呑み込んだ鴎が、喉の奥ふかくを裂いて、浜辺で死んでいた。トンビがそれを見て、こう言った。 「お前が、こんな目に遭ったのも当然だ。そらとぶ鳥が、海で餌を獲ろうなんて、どだい無理なのさ。」 ペリー139 、シャンブリ193、この話の系統は、イソップの原典。 145、賢者と蟻たちと、マーキュリー。  船が沈没し、乗客乗員全てが溺れ死ぬのを、岸から見ていたある賢者は、一人の罪人が、乗り合わせていたからといって、大勢の罪のない人々にも、死の審判をくだした、神の不条理を罵った。  賢人は、しばらくこうして、憤りに心を奪われていたのだが、一匹の蟻が、彼の足に、這い上がって噛み付いた。彼は蟻の巣のすぐ近くに立っていたのだ。  すると、賢者はすぐさま、蟻という蟻を、全て踏みつけて殺してしまった。すると、マーキュリーが現れて、杖で賢者を打ち据えながらこう言った。 「おまえに、神の審判を任せたら、この哀れな蟻どもに、したことと、同じ仕打ちをするのではないのか?」 ペリー306 、シャンブリ48、バブリオス117 、トムスンモチーフインデックスU21.3 、この話の系統は、バブリオス。 146、鼠と牡牛。  鼠に噛まれた牡牛が、腹を立て、鼠を捕まえようとした。しかし鼠は、うまく自分の穴へ逃げ込んだ。牡牛は、ツノで穴をホリカエソウトシタガ、鼠を引きずり出す前に、疲れてしまい、穴の前に、しゃがみ込んで寝てしまった。  鼠はそっと穴の外へと出てくると、牡牛に忍び寄り、そして、もう一度カミツイテ、穴の中へ逃げ込んだ。牡牛は跳ね起きたが、どうしてよいやら、わからずに、途方に暮れて、モーモー鳴いた。  すると鼠がこう言った。 「大きければよいとは限らないのだ。 悪戯にかけちゃ、小さい方が、ずうっと有利なのだ。」 ペリー353、バブリオス112、アウィアヌス・31 、キャクストン7.23 、トムスンモチーフインデックスL315.2、この話の系統は、バブリオス。 147、ライオンと兎。  ライオンは、偶然にも、ぐっすりと眠っている兎を見つけた。ライオンが、兎を捕まえようとしたその時、一匹の若い立派な牡ジカが駆けていった。ライオンは、兎をそのままにして、鹿の跡を追った。  ライオンは長いこと、鹿を追いかけたが、結局捕まえることはできなかった。そこでライオンは、兎の許へと引き返した。しかし引き返してみると、すでに兎も居なくなっていた。ライオンは独りごちた。 「こんな目に遭うのも当然だ。もっとよい獲物を捕ろうと、手の内にあった獲物を投げ出してしまったのだからな。」 ペリー148 、シャンブリ204 、トムスンモチーフインデックスJ321.3 、この話の系統は、イソップの原典。 148、農夫と鷲。  農夫は、罠にかかった鷲を見つけたのだが、鷲がとても立派だったので、逃がしてやることにした。すると、鷲は、恩知らずではないことを、農夫に証明してみせた。  鷲は、農夫が危険な壁の下に座っているのを見ると、急降下して、彼の頭から、はちまきを奪い取った。農夫が追いかけると、鷲は、その、はちまきを落として返してやった。農夫が、はちまきを拾い上げて、もとの場所に戻ると、彼が寄りかかっていた壁は、崩れ落ちていた。  農夫は鷲の恩返しに、大変心を打たれた。 ペリー296 、シャンブリ79 、トムスンモチーフインデックスB455.3, B521.2.1 、この話の系統は、バブリオス。 149、マーキュリーのごシンゾウと大工。  とても貧しい大工が、マーキュリーのごシンゾウを持っていた。男は毎日、シンゾウにお供え物をして、自分を金持ちにしてくれるようにと祈った。しかし、彼の熱心な祈りにも関わらず、彼はどんどん貧しくなって行った。  ある日のこと、大工はとうとうシンゾウに腹を立て、シンゾウを台座から引きずり下ろすと、壁に叩きつけた。すると、シンゾウの頭が割れ、さらさらと砂金が流れ出た。  大工はそれを拾い集めながらこう言った。 「全く、あなたは、理不尽でひねくれ者です。私がお祈りしていた時には、御利益を、授けて、下さらなかったくせに、こうして、ひどいことをしたら、富をお与えになったのですからね。」 教訓、悪は拝むよりも殴った方がよい。 ペリー285 、シャンブリ61、バブリオス119 、キャクストン6.6 、イソホ3.15 、ジェイコブス41 、ラ・フォンテーヌ4.8 、トムスンモチーフインデックスJ1853.1.1、この話の系統は、バブリオス。 150、牡牛と山羊。  ライオンに追われていた牡牛が、洞穴へと逃げ込んだ。するとそこには、牡山羊がいて、ツノを烈しく突き立ててきた。  牡牛は静かに言った。 「好きなだけ、そうしていればいいさ。私は、お前などなんとも思わない。怖いのはライオンだけなのだ。あの化け物が行ってしまったら、山羊と牛では、どちらがつよいか思い知らせてやる」 教訓、友人の苦境につけ込むなど、もってのほかだ。 ペリー217 、シャンブリ332 、バブリオス91、アウィアヌス・13 、キャクストン7.10 、トムスンモチーフインデックスJ371.1 、この話の系統は、バブリオス。 第五部終わり。 お気づきの点がございましたら、お知らせください。 http://aesopus.web.fc2.com/ ハナマタカシ。