古くて新しい「イソップ寓話」
最近は、イソップ寓話関係の出版物が少なくなってきたようです。本屋さんに行っても、以前はイソップ関係の童話が数多くあったのですが、最近は、数冊置い
てあるかどうかです。
また、「イソップは古臭い」とか「イソップは教訓臭くて嫌いだ」などと、批判されたりします。実は、こういう批判は、批判になっていないのです。
だって、紀元前から読み継がれてきている作品を、「古臭い」と言っても仕方がないでしょうし、もともと教訓として書かれているものを「教訓臭い」と言って
も仕方がありません。
それはまるで、「ことわざは古臭い」とか「ことわざは教訓臭くて嫌いだ」と言っているのと同じことなのです。
ところで、イソップ寓話は本当に古臭いのでしょうか。私にはそうは思えません。たとえば、漫画の神様と言われた「手塚治虫」は、バンパイヤという作品のあ
とがきに次のようなことを書いています。
ボクはよく、イソップ物語からテーマを失敬します。イソップ物語にはいろいろな人生の教えがある
からです。そのタネがつきると、こんどはことわざや、いろはがるたからもテーマをもらいます。"花よりダンゴ" ・"われなべにとじぶた"・"時は金なり
"・"なんじの敵を愛せよ" とかいろいろあります。ただ、これらのテーマが、お話のうえで、グッと強くでてしまうと、読んだら、はなもちならないほどい
やみな、そして、読みづらいものになります。テーマは、ほんのちょっぴりにおわせる程度でいいのです。
また、ショート・ショートの神様と言われた「星新一」も、「未来イソップ」というようなイソップ寓話のパロディー集を出しています。
インターネットを見てみても、イソップのパロディーはたくさんあります。パロディーというものは、元になる作品に魅力がなければ決して生み出されるもので
はありません。
更に、イソップ寓話のアイディアそのものが用いられることだってあります。
名探偵 コナン 38巻 青山剛昌 作 小学館 少年サンデーコミックス
この話では、コナン君は、「玄関に入った跡はあるのに、出た跡がないじゃない!!」と言って、中に誰かいるのではないかと推理しているのですが、
この推理は、史上最古の推理小説と言われることもある、次の話と同じです。
タウンゼント 39.病気のライオン
寄る年波には勝てずに衰えて、力では獲物を獲れなくなったライオンが、策略によって獲物を獲ることにした。彼は洞穴に横たわって、病気の振りをした。そ
して自分が病気であることが、世間に知れ渡るようにと画策した。
獣たちは、悲しみを伝えようと、一匹づつ、洞穴へとやって来た。すると、ライオンは、やって来た獣たちを、片っ端からむさぼり食った。こうして、多くの
獣たちが姿を消した。
キツネはこのカラクリに気付き、ライオンのところへやって来ると、洞穴の外に立ち、うやうやしく、ライオンの加減を尋ねた。
「どうもよくない」
ライオンはこう答えると、更にこう言った。
「ところで、なぜ、お前は、そんな所に立っているのだ? 話が聞こえるように、中に入ってこい」
するとキツネがこう答えた。
「だって、洞窟の中へ入って行く足跡は、たくさんあるのに、出てくる足跡が、一つも見あたらないんですもの」
他人の災難は、人を賢くする。
Pe142 Cha196 H246 PhP Ba103 Cax4.12 イソポ2.45 Hou73 Laf6.14 Panca3.4,
5.10 TMI.J644.1 (Aesop)
名探偵コナンの作者の青山氏は、おそらくこのイソップ寓話を知っていたのだと思います。
イソップは、紀元前6世紀に実在した人だと言われていますから、このアイディアはすでに2500年以上の昔からあったということになります。腕のよい漫画
家にかかれば、どんなに古いアイディアでも、ちょっと味付けをしただけで、現代でも十分通用するすばらしい作品となるのです。
もしかすると、青山氏は、イソップ寓話を随分と研究されているのかもしれません。
「ベーカー街の亡霊」という映画で、コナン君が犯人と汽車の上で戦うシーンがあるのですが・・・・ 犯人の切り裂きジャックは自分の身体と
毛利蘭の身体とをロープで結んで、「自分が機関車から落ちたら欄も死ぬことになる」と言って、コナン君をけん制します。
すると、欄は自分から飛び降りて、切り裂きジャックを道ずれに谷底へ落ちて行きます。
私はこのシーンを見て次のようなイソップ寓話を思い出しました。
タウンゼント 87.ネズミとカエルとタカ
陸に棲むネズミが、水に棲むカエルと友達になった。これが、そもそもの間違いだった。
ある日、カエルは、自分の足にネズミの足をしっかりとくくりつけ、自分の棲む池へと向かった。そして、水辺へやってきた途端、池の中へ飛び込んで、善行
を施しているとでも言うように、ケロケロ鳴いて泳ぎ回った。哀れネズミは、あっという間に溺れ死んだ。
ネズミの死体は水面に浮かんだ。一羽のタカがそれを見つけると、鈎爪でひっつかみ、空高く舞い上がった。
ネズミの足には、カエルの足がしっかりと結ばれていたので、カエルも共にさらわれて、タカの餌食となった。
害を成す者は、また、害を被る者なり。
Pe384 Cha244 Cax1.3 イソポ伝<2.41> 伊曽保2.9伝 Charles40 Laf4.11
J.index196 TMI.J681.1 (Life of Aesop)
日本昔話通観インデックス 196 継子の谷落とし
継子が谷へ落とされるが、継子は自分と母の裾を結んでいたので二人とも落ちて死に、頭が一つで胴が二つの蛇に変身する。
イソップ寓話が2500年以上も絶えることなく、読み継がれて来たのは、イソップ寓話そのものの伝承と平行して、イソップ寓話がその時代・時代に合うよう
に翻案されてきた。ということが大きいのではないかと思います。
古くはアリストパネス(前440-380頃)という喜劇作家による作品の数々。紀元前後作られたといわれるイソップの伝記、中世以降は、作者不詳の「狐物
語」、ダンテの「神曲」、チョーサーの「カンタベリー物語」、ゲーテの「ラインケ狐」・・・など、それぞれの時代に合うようにイソップ寓話が翻案されて登
場します。
日本でも、江戸時代の「絵入り教訓近道」や明治の巌谷小波の「こがね丸」・・・そして昭和の「未
来イソップ」、そして、「名探偵コナン」などもこの系譜に属します。
そしてこれから先も、才能のある作者の手によって、昔から続いて来たおなじみの話がその時代に合うように翻案され続けることでしょう。
私は初めに、「最近は、イソップ寓話関係の出版物が少なくなってきたようです。」などと言いましたが、2500年も続いて来た作品に対して、たかだか数十
年のスパンで見てもほとんど意味がありません。その時その時で、波はあるでしょうが、イソップ寓話はこれから先も絶えることなく受け継がれて行くでしょう
から・・・・。
漫画でも小説でも映画でもなんでもよいのですが、皆さんもいろいろな作品を鑑賞して、その中で、気がついたことがあったらぜひ教えてください。また、何か
作品を作ろうとして、アイディアに詰まったら、イソップ寓話集をぱらぱらとめくって見てください。何かよいアイディアが浮かぶかも知れません。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
2003/09/23日
最近、「童話王国」というオンラインゲームが誕生したのですが、この中では、イソップ寓話などのモチーフが数多く使われています。これこそが、現代のイ
ソップ寓話の受容の最先端と言えると思います。
参照サイト
童話王国 オンラインゲームの
サイト
任務の素 童話王国に出てくる、童話や寓話を考
察しているサイト
2004/06/29日
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