兎に関する寓話・17話


タウンゼント9.ライオンの御代

 野や森の動物たちは、王様にライオンを戴いていた。ライオンは残酷なことを嫌い、力で支配
することもなかった。つまり、人間の王様のように、公正で心優しかったのだ。
 彼の御代に、鳥や獣たちの会議が開かれた。そこで彼は、王として次ぎのような宣言をした。
「共同体の決まりとして、……オオカミと仔ヒツジ、ヒョウと仔ヤギ、トラとニワトリ、イヌと
ウサギは、争わず、親睦をもって、共に暮らすこと……」
 ウサギが言った。
「弱者と強者が共に暮らせるこんな日を、私はどんなに待ちこがれたことか……」
ウサギはそう言うと死にものぐるいで逃げていった。

地上の楽園などこの世にはない。

Pe334 Cha195 H242 Ba102 狐ラインケ1.1 (Ba)

註:原典などでは、最後の「ウサギはそう言うと死にものぐるいで逃げていった」というような記
述はなく、「めでたしめでたし」で終わっている。


タウンゼント155.ウサギと猟犬

 ある猟犬が、ウサギを巣穴から狩りだした。しかし長いこと追いかけたが、結局、追いかけ
るのを諦めた。それを見ていたヤギたちが、イヌをあざ笑って言った。
「あんたより、チビ助の方が速いとはね……」
 すると、イヌはこう言い返した。
「私は夕食の為に走っているだけだが、ウサギの方は、命をかけて走っているのだ」

Pe331 H238 Ba69 Charles85 TMI.U242 (Ba)


タウンゼント172.野ウサギとキツネたち

 野ウサギとワシが戦争をした。そして、野ウサギたちは、キツネに援軍を求めた。すると、キ
ツネたちはこう応えた。
「君たちが何者で、誰と闘っているのか知らなければ、喜んで助けに行くけどね……」

態度を明らかにする前に、あらゆる事情を思量せよ。

Pe256 Cha190 H236 Charles123 TMI.J682.1 (Aesop)


タウンゼント176.イヌとウサギ

 猟犬が、ウサギを追いかけていた。そしてすぐに追いつくと、一度は死ぬ程噛みついた。しか
し、次には、他のイヌと戯れるかのように、じゃれついた。
 するとウサギがこう言った。
「いいですか、もっと素直になって、本心を見つめて下さい。友達ならば、そんなに強く噛むの
はおかしいし、敵ならば、じゃれついたりしないでしょう?……」

一体何を考えているか分からないような人は、友達ではありません。

Pe136 Cha182 H22b Ba87 Charles60 TMI.K2031 (Ba)


タウンゼント201.ウサギたちとライオン

 ウサギたちが集会で熱弁をふるって、誰もが平等であるべきだと論述した。するとライオンた
ちがこう答えた。
「おい、ウサギどもよ、なかなか善いことを言うじゃないか。だが、その議論には、鈎爪や歯が
足りない。我々はそれを身につけている」

Pe450 H241 TMI.J975 (アリストテレス「政治学」1284a15)


タウンゼント245.スズメとウサギ

 ワシに捕まえられたウサギが、子供のようにむせび泣いた。スズメがそれを見て揶揄して言っ
た。
「君のその素早い足はどうしたの? 君はどうしてそんなにのろまなんだ!」
 スズメがこのように罵声を浴びせかけていると、突然タカがスズメをひっつかみ、彼を殺して
しまった。
 ウサギは心安らかに死に臨み、今際の際にこう言った。
「ふん。お前はさんは、自分が安全だと思って、私の災難を喜んでいたのだろうが、早々に、同
じ不幸を嘆く羽目になろうとはね!」

Pe473 Ph1.9 Laf5.17 TMI.J885.1 (Ph)


タウンゼント294.ウサギたちとカエルたち

 ウサギたちは、自分たちが並外れて臆病で、絶えずなにかに驚いてばかりいることに嫌気がさ
し、切り立った岸壁から深い湖に飛び込んでしまおうと決心した。こうして、ウサギたちは、大
挙して湖へと跳ねていった。
 すると、湖の土手にいたカエルたちが、ウサギたちの足音を聞いて、慌てて深い水の中へ潜り
込んだ。カエルたちが慌てて水の中へ消える様子を見て、一羽のウサがが仲間に叫んだ。
「みんな、ちょっと待って。死んだりしてはいけない。皆も今見ただろう。我々よりももっと臆
病な動物がいることを……」

Pe138 Cha191 H237 PhP Ba25 Cax2.8 Hou15 Charles61 Laf2.14 TMI.J981.1 (Aesop)


Ernest p196『自分の耳に怯える兎』

 ある日のこと、ライオンは山羊の角でひどい傷を負わされ、激しく憤り、角を持つ動物は全て王
国から追放すると宣言した。山羊や雄牛や羊や鹿など、角のある動物は皆、死を恐れてすぐさま逃
げ出した。
 自分の影を見た兎は、自分の耳がとても長いことに気付いた。
「さようなら、我が友よ」兎は夏の夕暮れ時に、いつもコロコロと子守歌を歌ってくれるコオロギに
言った。「私はここを去らねばならないのです。私には角がありますからね」
「角だって!」コオロギが声高に言った。「君は、僕を馬鹿にしているのか? 君の何処に角がある
と言うのだ!」
「そうはいいますがね」兎が答えた。「たとえこの耳が今の半分の長さだとしても、言いがかりをつ
けようとする連中にかかると、立派な角となるのです」

Laf5.04 (Faerne)


L’Estrange81『ジュピター神へとお祈りする、狐と兎』

 狐と兎がジュピター神へとお願いをした。狐は、兎のような素速い足が欲しいと祈り、兎は狐の狡
猾と口のうまさが欲しいと祈った。ジュピター神は彼らに言った。
「全ての生物は、利点や特異な点を持っているのだ。あらゆる者に、あらゆる利点を与えてやるなど
神の公正に反するものなのだ」

教訓

神は遍く生物に、その生物に見合ったものをお授けになった。であるから、自然に反して、備わって
いる以上のものを望むというのは、自然の創造主その方を非難することに他ならないのである。


Houston70『兎の大勢の友人』

 その兎は、他の動物に大変人気があった。そして動物たちは皆、彼女の友人だと公言していた。
 ある日の事、彼女は猟犬が近づいてくるのに気が付いた。そこで彼女は馬の所へ行って、背中に乗
せて猟犬から逃がしてくれるようにとお願いした。しかし彼は、主人のために大切な仕事があるのだ
と言って断った。
「他のお友達が、あなたを助けに必ず来ますよ」
 そこで兎は雄牛にお願いした。彼の角で猟犬どもを追い払ってもらうことを期待したのだ。
すると雄牛はこう言った。
「とても残念なんだけど、これから恋人と会う約束があるんだよ。でも我らの友達のヤギ君ならば、
必ずあなたの願いを叶えてくれますよ」
 ところがヤギは、彼女を堅い背中に乗せたなら、彼女が怪我をしてしまうのではないかと恐れた。
そこで彼は、この役は雄羊が適任だと言った。
  そこで彼女は雄羊の許へと行き事情を話した。すると雄羊はこう答えた。
「お友達の兎さんや、他のことならよかったのだけれど、猟犬は兎と同様に羊をも食べるのはよく知
られていることです。ですからこの件には関わりたくないのです」
 兎は最後の願いを子牛に託した。しかし彼も、彼女を助けることができないと悔やむばかりだった。
彼は、自分よりも年上の者たちが辞退した事柄につして、とても自分には責任が負えないと考えたのだ。
この時には、猟犬はすぐ近くまで迫っていた。そこで兎は、自分の足を恃んで走りに走った。そして
なんとか逃げのびた。
  
  友を大勢持つ者は、本当の友を持たぬ者である。 


Ernest p96『ライオンと驢馬たちと兎たち』

 鳥たちと獣たちの間で戦争が起こった時のこと、ライオンは、時と場所を決めると、来なかったなら
ば酷い刑罰を与えると言って、16歳から60歳までの家来たち全に、武装して集まるようにと命じた。
 戦場には、兎と驢馬の集団も現れた。司令官の多くは、彼らが戦いに不向きなので、彼らの任を解い
た。
「早まってはならん」ライオンが言った。「驢馬たちはラッパ卒に最適だ。兎どもは、伝令としてこの
上ないではないか」

Laf5.19 (Abs)


L'Estrangeイソップの伝記『鷲とカブトムシ』

 鷲に追いつめられた兔が、進退窮まりカブトムシに助けを求めた。そこでカブトムシは兔のために仲
裁に入った。しかし、鷲は羽ばたいてセンチコガネを吹き飛ばすと、兔をむさぼり食った。センチコガ
ネは鷲の行為だけでなく、仲裁が侮辱によって踏みにじられたことに憤り復讐を誓った。
 カブトムシは鷲が巣に帰るのを見届け、しばらくして、鷲が巣を離れた時に、卵を転がして生まれて
くる雛を殺した。鷲は悲しんで、次にはとても高いモミの木に卵を生んだ。しかしそれでもカブトムシ
は彼女を見つけ、またもや卵を転がして雛を殺した。そこで彼女はジュピター神の許へと行き、次に卵
を生む時に、大神の膝に卵を生むことを許してくれるようにと訴えた。しかし、カブトムシは大神を玉
座から立ち上がらせる方法を考え出した。センチコガネは大神のマントに糞をしたのだ。大神は慌てて
立ち上がり卵は膝の上から転げ落ちた。こうして鷲は三度までも卵を失った。ジュピター神は、怒りに
震えたが、事情を知るに至って、悪いのは鷲であることを知り、カブトムシを許した。


ペリー658『角を欲しがるウサギ』

あるウサギが、シカの立派な枝を張った角を見て羨ましくなり、ジュピター神に、身を守ることができ、
その上飾りにもなる、シカのような角を与えてくれるようにとお願いした。するとジュピター神は、そ
んな角は、お前の頭には重すぎると諭した。しかしウサギは、大丈夫だと言い張った。そこで、ジュピター
神は、ウサギの頭にシカのような角を生やしてやった。するとウサギは、角が重くて走れなくなり、牧羊
犬に捕まって殺されてしまった。

注釈 恐らくこの話は、次のイソップ寓話がベースになっている。


タウンゼント108.ネズミとイタチ

 ネズミとイタチは、もう長いこと、互いに多くの血を流して戦争をしていた。しかし、ネズ
ミたちは、一度たりとてイタチに勝つことができなかった。
 ネズミは、自分たちが負けるのは、指揮官がおらず、訓練も不足しているからだと考えた。
そこで、彼らは、中隊・連隊・大隊と戦闘隊形を整えるために、血筋も力も計略もずば抜けて
優れ、その上、戦いに於いて勇者の誉れ高いネズミたちを指揮官に選んだ。
 あらゆる訓練が終わると、先触れのネズミが、イタチに挑みかかり、正式に宣戦が布告され
た。新たに選ばれた将校たちは、目印になるようにと、頭に麦藁の飾りをつけて指揮をとって
いた。しかし、まもなく、ネズミたちは総崩れになって敗走し、我先へと穴の中へと逃げ込ん
だ。だが、将校たちは、頭の飾りがつかえて中に入れず、皆イタチに捕まって、食べられてし
まった。

栄光と危険は隣り合わせ。

Pe165 Cha237 H291 Ph4.6 Ba31 Laf4.6 TMI.L332 (Ba)


クルイロフ2.15『猟をした兎』

 獣たちが大勢集まって一頭の熊を捕らえた。広い野原で仕留めて、お互い分け合うことにし
て、誰が何を取るかという段になった。すると、さっそく兎が熊の耳に手を伸ばした。
 「おや、おまえは兎じゃないか、どこからおいでなすった?」と怒鳴られる。「猟の最中、
誰もおまえを見かけなかったぞ。」
 兎が答えた。「こりゃ驚いた、みなさん! 親しい友人の熊を森の中から脅しつけて、み
んなのいる野原へ追い立てたのはいったい誰ですか?」
 こんな自慢はあまりにも見えすいていたが、とても滑稽に思えたので、熊の耳のかけらがあ
たえられた。
(完訳クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫)

注釈 恐らくこの話は、次のイソップ寓話がベースになっている。

Ernest p170『驢馬とライオンの狩り』

  ある時、ライオンは驢馬を仲間にして狩りに行こうと思い立った。ライオンは、驢馬を森の中へ行かせ、
出来るだけ大声で喚くようにと言った。
「そうやって、森の動物を皆、浮き足ただせるのだ。私はここに立って、飛んで逃げてきた者たちを一網打
尽にする」
  驢馬は出来る限り恐ろし気な声で鳴いた。ライオンは狩りに飽きると、森から出てくるようにと驢馬を
呼んだ。
「私の仕事ぶりはどうでしたか?」驢馬が自慢げに言った。
「大変素晴らしいものだったよ」ライオンが答えた。「お前が、驢馬だとしらなかったならば、私だって怯
えたことだろうて」

Pe151 Ch208 H259 Pha1.11 Cax4.10 伊曽保2.40 Laf2.19


ラ・フォンテーヌ寓話『ラ・ロシュフコー公爵殿への話』

人間がどんなぐあいに行動するかを見て、
また、さまざまな機会に、動物と同じように
人間がふるまうのを見て、わたしはしばしば考えた、
動物たちの王もその臣下におとらぬ
欠点をもっている、そして自然は
あらゆる生きもののうちに、精気が
(物質でつくられる肉体の精気のことだが)、
そこから力をくみとる、ある大いなるものの微小な粒をおいているのだ、と。
このことをわたしはここで証明しよう。
狩人が待ち伏せをする時刻、あるいは光が
その火矢を海へ投げこむとき、
また太陽がふたたびその道を歩みはじめるとき、
もう夜ではないが、まだ明るい朝にならないとき、
どこかの森のはずれで、わたしは木のうえによじのぼり、
新しいジュピテルとして、そのオリンポスの頂きから
そんなことをほとんど予期していなかった一匹のウサギを、
思いのままに、かみなりでうつ。
たちまちわたしは見る、ヒースの野で、
目をキョロつかせ、耳をそばだてながらも、
陽気になって、じゃこうそうの香りがたちこめる饗宴をひらいていた
ウサギの群がみんな逃げ出すのを。
銃の音に一団は
地下の都市へ
身の安全をもとめて逃げ去る。
しかし、危険は忘れられ、その大きな恐怖も
やがて消える。と、わたしはふたたび見る、ウサギたちが
まえよりもっと朗らかに、またわたしの手にかかりにやってくるのを。
そこには人間の姿がみられるではないか。
どこかであらしに追いちらされ、
やっとのことで港にたどりつくと、
かれらはすぐにまた、同じ風、
同じ難船の危険をおかしてでかけていく。
まったくウサギ同様のかれらは、ふたたび
運命の手にかかることになる。 
以下省略
(ラ・フォンテーヌ寓話 今野一雄訳 岩波文庫)


ペリー408『井戸の中の兎と狐』(Syntipas10)

 兎が喉が渇いたので、水を飲みに井戸に降りて行き、心ゆくまで飲んだ。さて、そこ
から上がろうとしたが、登る手だてがなく、しょげかえっていた。狐がやって来て、そ
この兎を見て言うには、
 「大失敗だな。どうしたら井戸から上がれるかをまず考えて、それからそこへ降りて
行くべきだったのだ」
 人に相談をせず、独り善がりの行動に走る人を、この話は叱っている。
(イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫)


ペリー616 狼と戦う兎

 狼と兎が道でかちあった。すると狼がこう言った。
「お前は、心配性の臆病者だ。お前は、今までに勇気を出して他の動物と戦ったことがないだ
ろう?」
 すると兎が答えた。
「そんなことはありません。あなたとだって戦ってみせますよ。あなたがいくら大きくとも、
負けたりしませんよ」
 すると狼は憤然と言い返した。
「では賭けをしよう。もしお前が勝ったら、金貨一枚に対して10枚払うことにする。どうせ
俺が勝つに決まっているからな!」
 すると兎が言った。
「この賭けが保証されるならば、この取り決めに同意します」
 彼らは互いに誓い合うと、両者ともに戦闘配置についた。
 狼が兎をとっ捕まえて貪り食おうと、一直線に突っ走った。しかし、兎は突然逃げだした。力
が頼みの狼は、兎を追いかけた。しかし、兎はもの凄いスピードで走り続けた。
 狼はもやは消耗しきって、兎を追うのを諦めた。そして、地面に身を投げた。彼はもう一歩た
りとて走ることが出来なかったのだ。
 すると兎が狼に言った。
「あなたの負けです。こうして地面に伏しているのですからね」
 すると狼が言った。
「すると、お前が勝ったとでもいうのか?」
「その通りです」兎が言った。「大体、あなたは私よりも三倍も大きいのに、まともに戦うことが
できると思うのですか? あなたは大口を開けて、私の頭を噛み切るかもしれないのですから、私
は足で勝負する以外・・・・逃げる以外、どんな戦いができるというのですか? 私はこの戦術で、犬
たちと戦い……そして勝利するのです。そして、あなたは、戦いに破れたのですから、賭けたお金
を払って下さい」
 こうして兎は戦いに決着をつけた。そしてライオンは、狼が負けたと宣言した。

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