イソップ寓話 「犬と肉」についての資料。

中学生の皆さんに活用してもらうためにまとめました。どうぞ、授業に役立ててください。 
(画面サイズは、1024×768でご覧下さい)


エソポのハブラス 

1593年に九州の天草のコレヂョ(イエズス会の大学)で出版された「イソップ寓話」。
天正少年使節が西洋から日本に持ち帰った、グーテンベルグ式の活版印刷機で印刷されました。

ハブラス Fabulas は、英語のfable 寓話のこと。
コレヂョ Collegio は、英語の college 大学のこと。

ESOPONO  FABVLAS.

Inuga nicuuo fucunda coto.  

  Aru inu xiximurauo fucunde cauauo vataruni, so-
no cauano mannacade fucunda xiximurano cague-
ga mizzuno soconi vtcuttauo mireba, vonorega fu
cunda yorimo, ychibai vo>qinareba, caguetoua xi-
raide, fucundauo sutete mizzuno socoye caxirauo ire
te mireba, fontaiga naini yotte, sunauachi qiyevxe-
te dochiuomo torifazzuite xittcuiuo xita.

Xitagocoro.

 Tonyocuni ficare, fugio<na cotoni tanomiuo ca-
qete vaga teni motta monouo torifazzusunatoyu<
coto gia.
エソポの ハブラス。

イヌが 肉(にく)を ふくんだ こと。

 ある イヌ 肉(ししむら)を ふくんで 川を 渡るに、そ
の 川の 真中で ふくんだ 肉(ししむら)の 影
が 水の 底に 映ったを 見れば、おのれが ふ
くんだ よりも、一倍 大きなれば、影とは 知
らいで、ふくんだを 捨てて 水の 底へ 頭(かしら)を 入れ
て みれば、本体が 無いに よって、すなわち 消え失せ
て どちをも 取り外(はづ)いて 失墜(しっつい)を した。

下 心。

 貪欲(とんよく)に 引かれ、不定な ことに 頼みを 掛
けて 我が 手に 持った 物を 取り外すなという
こと ぢゃ。

原本 赤で囲まれている部分が、「イヌが肉をふくんだこと。
 
 
本来は、(444.と445) (446.と447)が見開きのページとなっていますが、
便宜上 (445.と446)を並べて掲載しました。
ですから本来は、左側のページに、「ESOPONO」 右側のページに、「FABVLAS.」と表記されています。

この頃は、大文字の場合、「U」 も 「V」 もどちらも「V」で表記されました。現在は、FABULAS と表記されます。


古活字版(こかつじばん) 伊 曽保物語(いそほものがたり) 

1600年頃に京都で出版された「イソップ物語」。
豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、朝鮮から持ち帰った高麗版活字印刷機で印刷されました。
(朝鮮から持ち帰った、高麗版活字印刷機は、銅活字でしたが、日本ではこれをもとに、
木活字が作られました。この一連の印刷物は、「古活字版」と呼ばれています。)

古活字版伊曽保物語 巻中

  十三  犬と(ししむら)の事

ある(いぬ)(し しむら)をくわえて、河を渡る。真ん中
ほどにて、その影、水に映りて、大きに見えければ、
()が、くわゆる所の(し しむら)より、大きなると心得て、
これを捨てて、彼を取らんとす。かるが(ゆえ)に、 二
つながら、(これ)を失う。その如く、重 欲心(じゅうよくしん)
(ともがら)は、他の宝をうらやみ、ことにふれ て、む
さぶる程に、たちまち天罰を、(こうむ)る。我 がもつ所の
宝をも、失う事ありけり。

古活字版伊曽保物語 巻中 十三 [原文]
 

古活字版伊曽保物語 [変体仮名]

巻中  十三  いぬと志ゝむらの事

あ流いぬ志ゝむらを具八へて河をわ多流まんな可
本と尓て楚の可け水丹うつ里て大き尓みえけ連八
わ可く八ゆ流所乃志ゝむらよ利大起なると心えて
古連を春てゝ可連を登らんと須可流可ゆへ尓ふ多
徒な可ら是をうしなふ楚の古とくちうよく志ん乃
とも可ら八他のた可らをうら屋三古と尓ふ連てむ
さふ流程尓たちまち天罰を加う無るわ可も川所乃
た可らをもうしなう事あ利介利
[変体仮名を基となる漢字で表示] 変体仮名一覧
 

古活字版伊曽保物語 [現代仮名・濁点・句読点]

巻中  十三  いぬと、しゝむらの事

あるいぬ、しゝむらをくはへて、河をわたる。まんなか
ほどにて、そのかげ、水にうつりて、大きにみえければ、
わが、くはゆる所の、しゝむらより、大きなると、心えて、
これをすてゝ、かれを、とらんとす。かるがゆへに、ふた
つながら、是をうしなふ。 そのごとく、ぢうよくしんの
ともがらは、他のたからを、うらやみ、ことにふれて、む
さぶる程に、たちまち天罰を、かうむる。わがもつ所の
たからをも、うしなう事ありけり。


万治版 伊曽保物語  

万治二年[1659年]に出版された「イソップ物語」
この本は、古活字版を基に作られていますが、活字印刷ではなく、
浮世絵などと同じように、一枚の板に一ページ分を彫って印刷するという
方式でした。


万治版伊曽保物語 巻中
 変体仮名 (変 体仮名一覧)

     第十三  犬(いぬ)志ゝむら能事

或犬(あるいぬ)志ゝむらをく八へ天。川を渡(王多る)。真中(まん奈可)尓て其影(その可げ)水(三づ)尓う川
里て大きに見衣遣れ八゛。我(王可゛)く八ゆる所能志ゝむらよ利大成(於本き奈る)と心
得(へ)天。是を捨(すて)て可れをとらんと春。故(可る可゛ゆへ)に二川奈可゛ら是を失(うし奈ふ)。其
ごとく重欲心(志゛うよくしん)能輩(とも可゛ら)八。他(た)能宝(多可ら)をうらや三。ことにふ連天むさ
ふる程に。多ちまち天罰(てん者゛つ)を蒙(可うふる)。我持所(王可゛もつところ)能宝(た可ら)を毛失事有(うし奈ふことあり)

万治版伊曽保物語 巻中
 現代仮名 

   第十三  犬(いぬ)しゝむらの事

或犬(あるいぬ)しゝむらをくはへて。川を渡(わたる)。真中(まんなか)にて其影(そのかげ)水(みづ)にうつ
りて大きに見えければ。我(わが)くはゆる所のしゝむらより大成(おほきなる)と心
得(へ)て。是を捨(すて)てかれをとらんとす。故(かるがゆへ)に二つながら是を失(うしなふ)。其
ごとく重欲心(じうよくしん)の輩(ともがら)は。他(た)の宝(たから)をうらやみ。ことにふれてむさ
ふる程に。たちまち天罰(てんばつ)を蒙(かうふる)。我持所(わがもつところ)の宝(たから)をも失事有(うしなふことあり)


明治以後のイソップ物語


Translated by Thomas James. Illustrated by John Tenniel

THE DOG
AND THE SHADOW FABLE 24

A DOG had stolen a piece of meat out of a
butcher's shop, and was crossing a river on his
way home, when he saw his own shadow reflected in
the stream below. Thinking that it was another dog,
with another piece of meat, he resolved to make
himself master of that also; but in snapping at the
supposed treasure, he dropped the bit he was carry-
ing, and so lost all.
Grasp at the shadow and lose the substance -- the
common fate of those who hazard a real blessing for
some visionary good.
通俗伊蘇普物語(つうぞくいそっぷもの がたり)
渡辺温訳 明治6(1873)年

第十八 犬と牛肉(にく)の話
 犬。肉舗(うしや)より肉一 塊盗出(ひときれぬすみだ)し。(ひ つ)くはへたるまゝ溝をわたるとて橋の中ほどに至りたる時。其影の水へ(う つ)れるを見て。()の 犬(おのれ)のくはへ()る より大きなる肉を銜居(くわへを)るよと心得。(そ れ)をもまた(わが)も のにせんものをと。水に写れる肉にくらひ付した。今まで(おのれ)(く わへ)し肉水底(すいてい)に 沈み。前に得しものをさへ。一時(いちじ)(あ は)(うしな)ひ けるとぞ
  (ことわざ)に。(か げ)(つか)む で。(もの)を失ふといふ事あり。(す べて)世の中の人々は。浮雲(うき)た る富を慕ひては。固有(こいう)せる真の宝を失ふ  浅ましき事ならずや






寓話24 犬と影

 ある犬が、肉屋から肉を一切れちょろまかし、家に帰る途中、川を渡っていた。彼は流れに映る自分の影を見て、他の犬が肉をくわえているのだと思い、その 肉も我が物にすることに決めた。
 こうして彼は、その獲物に飛びかかって行ったのだが、結局彼は、自分で運んでいた肉を落とし、すべてを失った。
 
 影をつかんで、実体を失う・・・それは、幻影を求め、実際の幸福を危険にさらす者たちの宿命である。

had stolen a piece of meat 一片の肉を盗んだ。
had stolen は、次の、was crossing a river よりも、以前に起こったことを示す過去完了
out of a butcher's shop 肉屋から
on his way home 家に帰る途中
shadow reflected in the stream below 下の流れに映った影。
Thinking that... = He thought that... と置き換えると分かりやすい。 (*注 He thinked that... と誤記しておりました。2003/09/04 訂正)
he resolved to make himself master of that
彼は彼自身をそれの主人とすることに決めた。つまり、「それを我が物にすることに決めた。」
but in snapping at... = but he was snapping at.. と置き換えると分かりやすい。
彼は飛びかかって行ったのだが...
the supposed treasure 宝と考えた物。つまり、「水に映った肉のこと」
he dropped the bit (which) he was carrying
彼は運んでいた、肉片を、彼は落とした。(関係代名詞を補うと分かりやすい)
so lost all. そして全てを失った。

Thomas Bewick.

The Dog and the Shadow.

A DOG, crossing a little rivulet with a piece of
flesh in his mouth, saw his own shadow
represented in the clear mirror of the limpid stream;
and believeing it to be another Dog who was carrying
another piece of flesh, he could not forbear catching
at it; but was so far from getting anything by his
greedy design, that he dropt the piece he had in his
mouth, which immediately sunk to the bottom, and
was irrecoverably lost.

MORALS.
Excessive greediness mostly in the end misses what it aims at;
disorderly appetites seldom obtain what they would have;
passions mislead men, and often bring them into great straits
and inconveniences, through heedlessness and negligence.


新訳伊蘇普物語 上田万年 解説 梶田半古 挿絵 明治四十(1907年)

第百十八  犬と影

 (いぬ)(にく)(く わ)えて、小橋(こばし)(わ た)りますと、(かゞみ)のように綺 麗(きれい)(みず)自 分(じぶん)(かげ)(う つ)つたので、必然(きつと)(ほ か)(いぬ)だと(お も)い、()(に く)自分(じぶん)のより(お う)きそうでしたから、(うつむ)いて(そ れ)()ろうとしました。()拍 子(ひようし)(くわ)え て()(にく)(く ち)から()ちて、(み ず)(そこ)(し ず)み、取返(とりかえ)しのつかぬ(そ ん)をしました。

 訓言(くんげん)  (か げ)(とら)えて実 物(じつぶつ)(うしな)う な。

 解説(かいせつ) ()(は なし)わ、()うまでもなく過 度(かど)(よく)(い ましめ)たものですが、其以上(それいじよう)尚 深(なおふか)意味(いみ)を も(ふく)んで()る ようです。(すなわ)(お う)くの(ひと)が、妄 想(もうそう)利益(りえき)(ま よ)うて、実際(じつさい)掌 裡(てのうち)()幸 福(こうふく)利用(りよう)す ることを(こゝろ)がけぬために、骨折(ほ ねお)つた結果(けつか)が、虻 蜂取(あぶはちと)らずになつて(しま)う と()(こと)(さ と)してあるのです。(おうき)利 益(りえき)(あり)つ こうとして、(かえ)つて(お うき)損失(そんしつ)(ま ね)くことがあるのですから、(いたずら)(ひ と)評判(ひようばん)などに(う か)されて、余計(よけい)(こ と)()()す より、矢張(やはり)(い ま)()るものを出 来(でき)るだけ活用(かつよう)し た(ほう)安全(あん ぜん)でありましよう。


小学読本 初等科 首巻-巻五 原 亮策 明治15年12月25日(1882年) 版権免許 
初版 明治16年9月 明治17年再販

 第三十六課
  欲ふかしければ物を失ふ

犬あり。口に食物をふくみて。橋をすぎしに。橋の下にも。また犬ありて。食物をふくみたり。
おのが影の。水にうつれることをしらず。その食をすて。走りてこれを奪はんとして。
つひに水におぼれたり。ふたゝび。さきの食物をとらんとせしにはや水中にありて。流れ去りぬ。
ものを貪らんとして。かへりてものを失なへり。


第三期  尋常小学校国語読本 巻一  文部省 大正七年(1918年)




日本昔話大成 動物新話型一 関 敬吾  

欲ばり犬 山形県上山市  参照

 むかしとんとあって、あるところに非常に欲ばりな犬がいた。そしてすごく大きい魚をどこかで見つけて、
くわえてきた。
 そして、橋の上をトントン、トントン渡ってきて、ちょいっと下を見たらば、自分がくわえた魚より大きい
魚が、水鏡に写っていた。そいつも欲しくなって、その犬がワンとほえたれば、魚がジャポンと川に落ち
てしまって、犬はどっちの魚も食えなくなった。だから、あんまり世の中、欲ふかくはすんなていうもんだ。



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